全方向タイプは、作業指示の最中にあらゆる角度に話題が発散する人です。ストライクゾーンが異常に広く、二塁へのけん制球も打つ気まんまんですね。話題を360度の全方向に発射する上司は、例えば、新しく品質管理データベースの作成指示をする場合、本題がいつの間にか変わり、「これを使ってバグ数の予測もできるよね」「別件のプロジェクトの件なんだけど……」などと話題が大きく発散し、本来のテーマを見失います。
このタイプの上司は、指示中に「あれもこれもしてほしい」と要望と希望で満載になります。また、全く関係のない話が頭をよぎり、脈略のない話に飛ぶわけです。結果、主要なテーマを煮詰められないまま指示が終わります。野球の話をしているのに、ラグビーの話題になることもよくあります。
部下にとって、全方向タイプの問題点は2点あります。1つは、指示内容が発散しすぎてメモが取れません。例えば、バグの分類方法の話をしているのに、全く関係のないプロジェクトのバグレポートの話題へ飛んだりします。
もう1つは、「何をどれくらいやるか」を決めることが困難です。作業内容を聞いても、あらゆる角度に指示が飛んでくるので、本来の質問を見失います。
モスクワ生まれの画家、ワシリー・カンディンスキーは、帰宅して夕暮れの部屋に横向きに置いた絵を見て、「美しい!」と感動します。これが、抽象画が誕生した瞬間です。カンディンスキーの抽象画のように、このタイプの上司は、抽象的に指示し、完成形を示しません。例えば、部下に原因調査の資料を作成指示する場合を考えます。この場合、過去の資料を見せて流れを示すのが効果的ですが、「誰が見ても分かる資料を作って」「顧客目線で書いて」と抽象的な指示をします。
上司の立場からすると、指示する時間は限られていますし、全てを具体的に説明することは困難です。結果、ある程度抽象的に指示し、後はよしなに完成させてほしいと考えます。
部下は、抽象的な指示から完成形にするべく、「きっとこのようなものが求められている」と推察して作業をします。抽象画を見て、「ここは鳥に似ているぞ」と想像するようなものですね。もちろん、上司のご意向に沿った成果物を作成することは困難です。結果、「意図したものと違うため修正させられた」「見当違いの作業をした」といったことが頻発します。厳しい上司の場合、「自分でちゃんと考えてる?」と叱られるわけです。
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