金属3DプリンタによるAM(Additive Manufacturing)が製造業で存在感を増している。長い歴史を持つ金属加工を根本から変える技術なだけに、大きな可能性を秘めているのと同時に導入に向けたハードルも存在する。今後、果たして普及は進むのか、日本国内の状況を占った。
金属3DプリンタによるAM(Additive Manufacturing、積層造形技術)が製造業で存在感を増している。長い歴史を持つ金属加工を根本から変える技術なだけに、大きな可能性を秘めていると同時に導入に向けたハードルも存在する。今後、果たして普及は進むのか、日本国内の状況を占った。
AMは、2012年に「WIRED」元編集長のクリス・アンダーソン氏の著書「MAKERS‐21世紀の産業革命が始まる」で取り上げられ、2013年に当時の米国大統領バラク・オバマ氏が一般教書演説で言及、日本でも一大ブームが巻き起こった。その後、国内では一時沈静化していたが、金属領域での積層造形技術が徐々に成熟してきたこともあり、近年再び注目を浴び、2022年には「第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)」(2022年11月12〜16日)では特別企画としてAMエリアが会場の東京ビッグサイトの南館内に設けられた。
金属3Dプリンタの代表的な方式としては、敷き詰めた金属粉末にレーザーや電子ビームを照射して溶融凝固し、それを一層ずつ重ねていくパウダーベッド方式(PBF)や、ノズルから噴射した金属粉末にレーザーを当てて溶かして固め造形する指向性エネルギー堆積方式(DED)がある。DEDには金属ワイヤを用いるタイプなども存在する。また、DEDとは異なるが、金属ワイヤを使用しアーク放電を使って積層造形をする方式もある。その他、敷き詰めた金属粉末に液体のバインダー(結合剤)を噴射して所定の形状に固めた後に脱脂、焼結するバインダージェット方式、また最近では熱源を使用せずに金属粉末を超高速で吹き付けて結合、造形する超音速積層方式なども登場している。
いずれにしても従来の加工方法とは根本的に異なることから、多くのメリットを生み出せることが注目されている。これまでにない形状への加工を実現することができ、中空構造で軽量化が図れる他、一体造形によって部品数も削減できる。大量生産に向かない製品でも、一品一葉の製造に対応できる。形状によっては切削に比べて使用する材料も減り、サステナビリティにも大きく貢献する。
金属AMは、仕上げの加工などで他の切削加工と組み合わせて使う必要性があることから、これらの複合化を狙う主だった工作機械メーカーは既に金属3Dプリンタを扱っている。DMG森精機は5軸マシニングセンタにDED方式のAMを組み込んだ「LASERTEC 65 DED hybrid」やパウダーベッド方式の「LASERTEC 12 SLM」などを展開する。2022年には自社の金属3Dプリンタ設備を用いた受託加工サービス「AM Lab & Fab」を伊賀事業所(三重県伊賀市)、東京グローバルヘッドクォータ(東京都江東区)で開始した。
DMG森精機 社長の森雅彦氏は「今は60〜70億円の規模でビジネスをしている。これを100億円、300億円へと育てていきたい。AMは新しい発見がたくさんある。だからやらなければならない。損するわけにはいかないため装置価格は高くなっているが、10年くらいかけて7000〜8000万に下げていきたい」と意気込む。
ただし、期待度はメーカーによって異なる。ヤマザキマザックは5軸マシニングセンタにワイヤアーク方式のAMを搭載した「VARIAXIS j-600/5X AM」や複合加工機にレーザー方式のAM加工ヘッドを組み合わせた「INTEGREX i-400 AM」などをラインアップしている。ただし、今後の普及拡大については慎重な姿勢を示す。ヤマザキマザック 取締役 常務執行役員 営業CS本部 本部長の山崎真嗣氏は「金型補修などに需要がある。研究は続けているが、今この瞬間は広がっていくとは思えない。実際のビジネスベースで考えるとEVで使われるFSW(摩擦攪拌接合)の方が早く進んでいくのではないか。現段階の需要と供給を見ると、AMは需要に対してプレイヤーの数が多いと感じている」と話す。
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