アステラス製薬は、同社営業本部傘下のデジタルコミュニケーション部で取り組みを進めているMR(複合現実)やメタバース関連のプロジェクトについて説明。2021年度まで進めてきたPoC(概念実証)の成果を基に、2022年度後半からはさらに規模を拡大した実証や機能拡充を進めていく方針だ。
アステラス製薬は2022年9月27日、東京都内で会見を開き、同社営業本部傘下のデジタルコミュニケーション部で取り組みを進めているMR(複合現実)やメタバース関連のプロジェクトについて説明した。2021年度まで進めてきたPoC(概念実証)の成果を基に、2022年度後半からはさらに規模を拡大した実証や機能拡充を進めていく方針だ。
同社は2022年4月の組織改正において、営業本部内の各部署に散在していたデジタル関連機能を1つに集約した「デジタルコミュニケーション部」を発足した。アステラス製薬 デジタルコミュニケーション部 部長の小澤ゆり氏は「当部が営業本部のデジタルハブを担う新体制によって、デジタルツールを活用した情報提供体制の構築と運用をさらに推進できるようになった」と強調する。
デジタルコミュニケーション部では、「デジタルテクノロジーを活用した医療に対する新たな価値創造」「デジタルチャネルやオンラインMR(医薬情報担当者)の強化」「デジタルを通じた営業活動の高質化/効率化の支援」を事業目標に掲げている。今回発表したMR(複合現実)やメタバース関連のプロジェクトは、「デジタルテクノロジーを活用した医療に対する新たな価値創造」に対応するものだ。
MRの活用を積極的に進めているのが「HICARI(Hologram Informed Consent Application with mixed Reality Interface)プロジェクトである。アスアラス製薬は2019年6月、日本マイクロソフトとの間で、医療従事者と患者の間の疾患説明におけるコミュニケーション支援へのMRの活用を発表しており、この取り組みがHICARIプロジェクトとして継続している形だ。
アステラス製薬 デジタルコミュニケーション部 係長の兒玉浩亮氏は「患者が正しく現状の疾患を理解することは治療をスムーズに進めていく上で重要なことだ。しかし、医療従事者から患者に疾患を説明するときに、口頭だけではイメージしづらく、自分ゴト化できないことで、治療継続や服薬継続率が低下する原因になっている。イラストや動画などの2次元コンテンツ、模型や3Dビューなどの3Dコンテンツの活用でよりイメージしやすくなるが、MRを活用すれば没入感や疑似体験なども含めてより大きな効果が得られるのではないか」と説明する。
HICARIプロジェクトでは、骨粗しょう症と高コレステロール血症という2つを対象に、疾患を分かりやすく説明するMRコンテンツを制作した。MRヘッドセットとしては、コロナ禍前の2019年度のPoCでは初代の「HoloLens」を、2021年度のPoCでは「HoloLens 2」を使用した。定量評価としては、疾患理解に対するアンケート項目で約85%が肯定的回答となり、定性評価としても「患者の興味関心が非常に高かった」「新しい患者向け資料としての可能性を感じる」などの意見が得られたという。
なお、VR(仮想現実)ヘッドセットではなくMRヘッドセットであるHoloLens/HoloLens 2を採用した理由については「医療従事者と患者のコミュニケーションを深めることが目的であり、そのためには互いの顔を見て話をする必要があるが、VRヘッドセットではそれができないからだ」(兒玉氏)という。また、HICARIプロジェクトのMRコンテンツは、これまで紙ベースで展開してきた患者向け小冊子と同じ位置付けであり、単独で収益を上げる事業化は想定していない。MRヘッドセットは医用画像を分かりやすく表示する上で効果を発揮するものの、患者自身の医用画像については個人情報の取り扱いとの兼ね合いもあり、HICARIプロジェクトで取り込む予定はない。
これらPoCの結果を基に、今後はコロナ禍の状況を見据えながら、数十の医療機関が参加するより大規模な実証に進めたい考えだ。
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