ステアリングのない自動運転車はどのような変化をもたらすのか和田憲一郎の電動化新時代!(45)(2/3 ページ)

» 2022年05月23日 06時00分 公開

最終規則の骨子とは

 今回の正式な規則名称は「Occupant Protection for Vehicles With Automated Driving Systems」である。つまり自動運転システム搭載車の乗員保護についての最終規則となる。主な骨子は、筆者がみるに4つである。

  • 基本的な考え方として、今回の最終規則であっても、自動運転システム搭載車は従来の自動運転システム非搭載車と同様の衝突安全性能のレベルは維持することを明確にしたこと。自動運転システム搭載車だから規則を緩めたということはない
  • 運転席の定義を見直したこと。最近の実証試験を行っている自動運転システム搭載車といえども、ステアリングは存在し、ドライバーはステアリングから手を離して運転可能であった。しかし、今回の改訂では、もう一段踏み込み、手動操作がない、つまりステアリングがない車両を考慮して最終規則が定められた。そのため、運転席の定義として、「手動で操作する運転装置にすぐにアクセスできる指定された座席位置」としている
  • 前提条件はあるものの、従来の自動運転システム非搭載車に比べて、ステアリングのない自動運転システム搭載車はコストを1台あたり約1000ドル低減することができるとNHTSAは予測している
  • 最終規則の有効発効日は2022年9月26日である。ということは、早ければ2022年10月以降にWaymoやCruiseなど複数の企業からステアリングのない自動運転システム搭載車が登場すると考えられる

 なお、今回の最終規則では、“デュアルモード車”つまり、通常のステアリングを有する車両とステアリングが収納された状態に切り替えることができる自動運転システム搭載車についても、全てのFMVSSに適合することを証明するよう要求している。

 さらに、最終規則公表の影響かもしれないが、テスラのイーロン・マスク氏は、2022年4月22日に第1四半期の決算を発表した場で、2024年までにステアリングもペダルもないロボタクシーが量産体制に入ると述べている。ロボタクシーの目的は、走行距離に応じたコストの最小化であり、公共バスや地下鉄の料金よりも低価格での移動手段が提供可能となると説明している。

図表2:官報に掲載された自動運転システム搭載車の乗員保護に関する最終規則。NHTSAの資料を基に作成[クリックで拡大] 出所:日本電動化研究所

考えられる課題は

 1885年にゴットリープ・ダイムラー氏がガソリン車を開発して以来、自動車は約140年の歴史がある。まさか今の時代に、ステアリングがないクルマについて法規として制定されるとは驚きである。

 米国カリフォルニア州車両管理局(DMV)は毎年、カリフォルニア州内で自動走行した車両の走行距離数を公表してきた。最近1年間では、全メーカーの走行距離が約650万km、最も走行距離が多かったのはWaymoで約370万Km、次がCruiseで約140万kmとなっている。運転者不在の自動運転車も実証走行しており、2021年の1年間だけで、Apollo、Cruise、Nuro、Pony.AIの4社の総走行距離は約4万kmに達している。これらの状況も、ステアリングなしの自動運転システム搭載車の最終規則制定に影響を与えたと思われる。

 相当な走行実績があるが、それでも幾つかの課題は存在するように思える。例えば、自動運転システム搭載車で市街地を走る場合、人やバイク、自転車など障害物が多いが、実際に実用性をどの程度確認しているのか。自動運転システム搭載車で走行中に車両トラブルが起きたときはどうするのか。緊急ブレーキ的な停止スイッチがあるかもしれないが、ステアリングがないため舵を切ることができない。また、自動運転システム搭載車の充電が必要なときは近隣の充電スタンドに向けて自らルートを変えて運行するのだろうか。

 考えてもきりがないが、米国では正規の規則にのっとった車両として、カリフォルニア州を中心に次第に市民権を得るのだろう。また、道路やインフラなどは、自動運転システム搭載車に適合するように次第に変えていくとも思われる。

図表3:米国カリフォルニア州での自動運転車の走行結果 (2020年12月〜2021年11月)[クリックで拡大] 出所:日本電動化研究所

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