トヨタの材料解析クラウドサービスで住友ゴムがタイヤゴム材料開発を加速材料技術(1/2 ページ)

住友ゴム工業は、オンラインで「材料解析クラウドサービスを活用した実証実験説明会」を開催し、2022年4月12日に発表した「ゴム材料開発における解析時間を100分の1以下に短縮〜トヨタ自動車の材料解析クラウドサービスを活用〜」の取り組み内容について詳しく説明した。

» 2022年04月14日 13時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

 住友ゴム工業(以下、住友ゴム)は2022年4月13日、オンラインで「材料解析クラウドサービスを活用した実証実験説明会」を開催し、同年4月12日に発表した「ゴム材料開発における解析時間を100分の1以下に短縮〜トヨタ自動車の材料解析クラウドサービスを活用〜」の取り組み内容について詳しく説明した。

 シリカ配合ゴム材料が世の中に登場して以降、低燃費性能とグリップ性能を高度に両立した低燃費タイヤの開発が主流になる中、住友ゴムはタイヤ開発におけるさまざまな独自技術の開発に取り組んできた。1998年には業界に先駆けてタイヤの構造設計にコンピュータシミュレーションを導入し、2000年代には国の大型放射光施設やスーパーコンピュータの活用を開始するなど、タイヤゴム材料の先端研究を実施してきた。

住友ゴムのタイヤ開発における独自技術開発の歴史低燃費タイヤ開発の歴史 (左)住友ゴムのタイヤ開発における独自技術開発の歴史/(右)低燃費タイヤ開発の歴史[クリックで拡大] 出所:住友ゴム工業

 そうした取り組みの成果として、大型放射光施設「SPring-8」とスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を活用して開発した「エナセーブ PREMIUM」(2012年発売)では、転がり抵抗を約39%低減させ、燃費性能を約6%向上させることに成功。さらに、大強度陽子加速器施設「J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)」とスーパーコンピュータ「京」を活用することで、耐摩耗性能を全モデルから51%向上させた「エナセーブ NEXT II」(2016年発売)を開発し、その後、X線自由電子レーザー施設「SACLA」やAI(人工知能)技術を用いて、前世代比で2.5倍性能が長持ちする「エナセーブ NEXT III」(2019年発売)の開発へとつなげてきた。

 さらに、住友ゴムはグリーンイノベーションによる新たな性能を付与した製品を通じて、社会へ貢献することを目指しているという。「その実現に向けて、従来の物質・材料科学と計算科学的なアプローチに加え、さまざまな社会課題に向けた研究開発が重要となっており、これらを結び付けるフレームワークとして、情報科学・AIを駆使することが不可欠であり、近い将来、実現すべき取り組みとなるだろう。その中で、材料を直接計測する先端研究施設のさらなる活用は極めて重要となる」と、住友ゴム 研究開発本部分析センター 主査の増井友美氏は述べる。

グリーンイノベーションによる社会貢献に向けて グリーンイノベーションによる社会貢献に向けて[クリックで拡大] 出所:住友ゴム工業

 実使用条件下でのタイヤのゴム表面は、さまざまな変形をすることによって機能を発揮している。その際、ゴム内部の分子構造も変形によって構造を変化させているが、実は「タイヤ性能」と「変形によるゴム特性の変化」の関係、そして「変形によるゴム特性の変化」と「ゴムの変形による分子構造の変化」の関係については、まだ十分に明確になっていないのだという。「このようなタイヤ変形下において、『材料がどのように変化』し『機能しているか』の材料研究ができれば、さらなる高機能なタイヤゴム材料の開発につなげられる」と、増井氏は先端研究施設の活用の重要性を説く。

タイヤ材料開発における課題 タイヤ材料開発における課題[クリックで拡大] 出所:住友ゴム工業

計測技術の高度化とビッグデータ化によるジレンマ

 その一方で、タイヤゴム材料の開発は、計測技術の高度化とビッグデータ化に伴う課題に直面している。従来の計測技術では、連続的なゴムの変形に対して、ごく一部の情報しか計測できなかったが、近年の計測技術の高度化によって、住友ゴムでは、実験に伴うデータ量が5年ほど前と比較して、約1000倍に増大。また今後、先端研究施設における計測技術はさらに高度化していくことが考えられるため、より詳細な連続的なデータが得られるようになる。だが、データ量が爆発的に増加し、ビッグデータ化してしまうことで、PCを用いた解析には限界が生じ、有効活用できていない膨大な未解析データが生まれてしまうといったジレンマがある。

計測技術の高度化とビッグデータ化に伴う課題 計測技術の高度化とビッグデータ化に伴う課題[クリックで拡大] 出所:住友ゴム工業

 そこで、その解決策として取り入れたのが、トヨタ自動車が事業化に向けて実証実験を進めているクラウド材料解析プラットフォームサービス「WAVEBASE」だ。増井氏は「WAVEBASEを用いることで、大量の実験データを、クラウド上で高度情報処理することが可能となり、先端研究施設だけでなく、会社で所有する実験室系分析装置で得たデータまで活用した高度な解析が実現する」と述べ、WAVEBASEの活用が従来の材料研究開発スキームに大きな変革をもたらすという。

WAVEBASEの活用で得られる価値 WAVEBASEの活用で得られる価値[クリックで拡大] 出所:トヨタ自動車

 WAVEBASEでは「データ解析」「データの整理・蓄積」「データ活用」の3つの範囲を自動化するサービスを提供し、新素材のアイデアが生まれる環境を顧客とともに実現することを目指している。特に“材料データからの情報の取り出し”に強みを発揮する。WAVEBASEでは顧客要望に応じて解析アルゴリズムを作成し、いつでもどこからでも解析を実施できる環境を提供。さらに、従来の解析手法に捉われないデータサイエンス技術を活用した情報の取り出し機能も利用可能で、見過ごしがちな情報や取り出しにくい情報を取り出して活用できるといった特長がある。

 トヨタ自動車 先進技術開発カンパニー プロジェクト領域 ADPT WAVEBASEプロジェクト サービス基盤開発グループ グループ長の矢野正雄氏は「WAVEBASEは、顧客ニーズに合わせてカスタマイズした解析が使え、解析時間の短縮や一定した解析品質の提供に貢献する。また、クラウド上で全データを解析することで、さまざまなデータを一元管理でき、過去データの活用にもつなげられる。そして、ノウハウの詰まった解析によって材料データの使い切りが可能となり、少量データでも次のアイデアにつなげられる」と説明する。

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