顔認証トップのパナソニックが動作予測AIコンテストに挑む、Facebookに肉薄組み込み開発 インタビュー(1/2 ページ)

顔認証トップのパナソニックが、新たなAI技術分野に展開を図るべく、台所での動作認識や予測の精度を競うコンテスト「EPIC-KITCHENS-100」に参加。動作予測部門の23チームの中で、第1位のFAIR(Facebook AI Research)に次ぐ第2位の成績を収めた。

» 2021年08月04日 10時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 パナソニックが近年注力している事業の一つに顔認証ソリューションがある。デジタルカメラ向けなどに長年培ってきた技術を基にした同社の顔認証技術には定評があり、2017年5月には、米国標準技術研究所(NIST)が公開している映像セキュリティ市場で撮影され得るあらゆる条件を網羅したベンチマークデータセットで、世界最高水準の顔照合性能を獲得して名実ともに「顔認証のトップ企業」となった。現在は、この高度な顔認証技術を基に、空港の帰国手続きなどに用いる「顔認証ゲート」や、入退セキュリティシステム「KPAS」などの形で顔認証ソリューションとして事業化している。

 その顔認証トップのパナソニックが、新たなAI(人工知能)技術分野に展開を図るべく、AIコンテストに参加し準優勝となる第2位の成績を収めた。世界的な画像認識国際学会である「CVPR(IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition)2021」で開催された、台所での動作認識や予測の精度を競うコンテスト「EPIC-KITCHENS-100」の第3回において、動作予測(Action Anticipation)部門に参加した23チームの中で、第1位のFAIR(Facebook AI Research)と第3位のインペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)と上海交通大学の混成チームに割って入った格好だ。

AIコンテスト「EPIC-KITCHENS-100」で用いられる映像データセットのイメージ AIコンテスト「EPIC-KITCHENS-100」で用いられる映像データセットのイメージ(クリックで拡大) 出典:パナソニック

CNS社イノベーションセンターとPSNRDで新たなAIコンテストに挑戦

 今回、EPIC-KITCHENS-100に参加したのは、パナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社の研究開発部門であるイノベーションセンターと、CNS社傘下の受託開発子会社であるパナソニック システムネットワークス開発研究所(PSNRD)から成るチームである。

 CNS社は、「流通」「物流」「エンターテインメント」「パブリック」「アビオニクス」「製造」という6つの重点事業領域で、B2B向けを中心に幅広い分野で事業を展開している。これら幅広い事業分野に対応可能なセンシングやAI・IT、ロボティクス、シミュレーション、サイバーセキュリティ、ネットワークなどのコア技術を顧客との共創を通じて開発するのがイノベーションセンターの役割だ。パナソニック CNS社 イノベーションセンター 技術総括 マルチセンシング技術開発部 開発1課 課長の藤松健氏は「特にセンシングやAIの技術開発には注力している。実際に、NISTのベンチマークデータセットで世界最高水準の顔照合性能を達成した成果は当センターによるものだ」と語る。

パナソニック CNS社とイノベーションセンターの位置付け パナソニック CNS社とイノベーションセンターの位置付け(クリックで拡大) 出典:パナソニック

 一方、PSNRDは、1988年に旧松下通信工業の地方研究所として発足した受託開発の専門企業だ。本社のある仙台の他、金沢、浜松の3拠点に展開しており、全従業員の9割に当たる396人が技術社員で、「無線」「パワエレ・エネマネ」「画像・センシング」「スマート端末」の4つをコア技術に位置付けている。PSNRD 技術センター 第1技術部 開発16課 第2係 係長の竹中慎治氏は「パナソニックグループだけでなく、グループ外からの開発受託も行っており、量産立ち上げまでの開発フローを技術で支援している」と説明する。

パナソニック システムネットワークス開発研究所の概要 パナソニック システムネットワークス開発研究所の概要(クリックで拡大) 出典:パナソニック

 CNS社のイノベーションセンターが、第3回EPIC-KITCHENS-100への参加を決めたのは2020年秋〜年末ごろになる。日々の開発活動で、イノベーションセンターと連携することが多く、画像・センシングで高い技術を有するPSNRDと共同で取り組むことを決めた。「両社のマネジメント層も、新たなAI技術に対する新たなチャレンジを後押ししてくれた」(藤松氏)。

 とはいえ、第3回EPIC-KITCHENS-100の投稿締切は2021年5月末。実質的な開発期間は約半年しかなく、それまでに参加を予定している動作予測部門のスコアについて、2020年度の評価値(Mean Top-5 Recall)である11.19%を上回らなければ、上位に入賞することは難しい。しかし当初は、台所での作業の様子を撮影した100時間の映像データから成る学習データセットを使って開発した動作予測アルゴリズムの精度をなかなか上げられなかった。パナソニック CNS社 イノベーションセンター 技術総括 マルチセンシング技術開発部 開発1課 2係 係長の里雄二氏は「今回のコンテストの裏に隠れていた課題は、学習データの偏りへの対応だったと考えている。例えば、学習データセットの中には、食器を洗う場面はたくさん出てくるが、フルーツを切るという場面はそれほど出てこない。この偏ったデータをそのまま学習すると、アルゴリズムも偏ったものになり動作予測の精度が上がらない。少量のデータから、どのように効率良く学習するかが重要だった」と強調する。

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