AIロボットでイチゴの受粉を自動化、世界中の食糧問題解決を目指すHarvestXモノづくりスタートアップ開発物語(7)(2/3 ページ)

» 2021年01月19日 14時00分 公開

プロトタイプで気づいた「受粉の難しさ」

――あっという間にプロトタイプが出来上がりましたね。

市川氏 今振り返ると、当時の私は「絶対にこれを成し遂げるんだ」といった意地のようなものよりも、「自分の持つ技術が社会に役立てばうれしい」という素朴なモチベーションに支えられていたように思います。

 最初のプロトタイプはユニット型の設備で、大きさを自由に変えられました。当時の世の中の流れとして、事業会社が不動産の有効活用に取り組む動きが増えていて、ユニット型にすれば設備として導入してもらいやすいだろうと考えました。

 室内はイチゴが育ちやすい温度に保ち、植物の成長を促進する赤と青の光源スペクトルをもつLEDを使っています。カメラで「赤いもの」を認識することで、イチゴを茎の部分からカットして収穫できるというものでした。

――プロトタイプを作って明確になった課題はありましたか。

市川氏 受粉の難しさです。植物工場を導入した方々と話す機会が増えてハッキリしたのですが、これに皆さん頭を悩ませている様子でした。

 ミツバチが蜜を回収する際に受粉が起きるのだから、ミツバチを設備内に放せばいいのではないか、とも思いましたが、詳しく話を聞くとそう簡単ではないことが分かりました。ミツバチの飼育は難しいし、費用をかけてミツバチを補充しても、受粉成功率は5〜8割と確実ではありません。さらにミツバチを放すことで、密閉して無菌状態にしている植物工場内に病害のリスクが生じてしまう……。

 そこで、ミツバチを使わない受粉システムを構築できないかと考えました。そのアイデアに基づいて、2019年7月にプロトタイプの改良版を作成しました。

新たに作成した改良版プロトタイプ*出典:HarvestX[クリックして拡大]

――どのような点を変更したのですか。

市川氏 最大の変更点は、受粉装置を作ったことです。受粉装置の開発はいくつもの研究機関が取り組んでいますが、花粉を噴出する仕組みは、超音波方式と噴射方式の2つに大別されます。ただ、これらの方式は高精度センサーを用いる必要があるなど技術的なハードルがたくさんありました。これに対して、私たちは極めて“アナログ思考”の開発アプローチをとりました。

 もう1つの変更点は、従来のプロトタイプが行っていた土壌栽培を水耕栽培方式に変えたことです。一般的に植物工場では水耕栽培を行いますが、当初は私たちに知見がなかったため設備を作れませんでした。

――“アナログ思考”と言いますと……。

市川氏 農業生産者の方々はブラシに花粉をつけてめしべに塗ります。この工程をそのまま自動化したのです。

 詳細は話せませんが、ディープラーニングと制御アルゴリズムを組み合わせることで、花を認識して適切に受粉させます。2019年9月に国内の特許申請をして、最近になって国際特許も出願しました。

あえてアナログな受粉方式を選んだ市川氏と渡邉氏*出典:HarvestX

――それによって、受粉確率は100%になるのですか。

市川氏 現状では実証実験の回数が少なく、正確なデータがとれていません。そのため「ミツバチを超えた」ということはできませんが、将来的にはミツバチと同等かそれ以上の確率で受粉させられるよう目指しています。

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