工場の自動化を支え続けてきたCC-Link協会(CLPA)は2020年、設立20周年を迎えた。そこで20年の歴史の中でのモノづくりの変化とこれから求められることについて、全4回の連載で紹介していく。第2回となる今回は、CLPA幹事会社のうち、NEC・Cisco Systems・Schneider Electric・IDECの4社による新たなモノづくりの展望とCLPAへの期待について紹介する。
工場の自動化を支え続けてきた産業用オープンネットワーク団体であるCC-Link協会(CLPA)は2020年に設立20周年を迎えた。20年の歴史の中で世の中の変化をどう捉え、これからのモノづくりをどう導くのか。本シリーズでは4回の連載形式で「CC-Link協会のこれまでとこれから」について紹介し、モノづくりの在り方を読み解く。
第1回は、東京大学 名誉教授でCLPA 最高顧問の木村文彦氏により、製造業の変革とスマート工場の在り方について紹介したが、第2回となる今回は、CLPA幹事会社のうち、NEC・Cisco Systems・Schneider Electric・IDECの4社による、新たなモノづくりの展望とCLPAとの連携、「CC-Link IE TSN」への期待などについて紹介する。
スマート工場の実現には、ITとFAが1つのネットワーク上で融合し、「機能」と「データ」が連携・協調することが求められる。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの影響もあり、工場で働く人々の働き方改革やニューノーマルに向けて「働く環境としての工場」も新たな在り方を検討する必要が出てきている。
NECは、デジタル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速する多くの技術を持ち、国内外において多くの実績を重ねている。5Gなどの無線技術、Bio-IDiom(生体認証)技術、ITセキュリティ技術などさまざまな先進技術を保有しており、スマート工場化が進む中で、CLPAが推進するCC-Link IE TSNと組み合わせられるネットワーク技術での貢献を進めるとともに、生体認証技術を生かした働き方改革での貢献を広げていく方針である。
スマート工場化に貢献するネットワーク技術としてはCLPAが推進するCC-Link IE TSNがあるが、NECでは海底ケーブルから衛星通信など高度で信頼性が要求される多彩な通信技術を保有している。さらに、IoTやDXを支える5Gなど多数の技術資産と実績により今後期待されるCC-Link IE TSNの無線化を推進。CLPA内で三菱電機とともに無線WGを主催し活動を進めているところだ。この無線化には、NECがNICT(情報通信研究機構)などとともに推進するFFPA(Flexible Factory Partner Alliance)の成果を活用するだけでなく、NECが世界で初めて実用化に成功したExpEtherのコア技術をWi-Fiに適用したものを活用することも検討している。
一方、ニューノーマルにおけるスマート工場では、今後設備・インフラ系だけでなく、現場やリモートでつながる多くの人々をつなぎ、連携させる視点が必要になる。さらに、現場で働く人をさまざまなリスクから守って安心安全な労働環境を保つという視点も重要になる。
NECでは、Bio-Idiomという個人認証の分野で世界トップクラスの技術を保有しており、現場で働く人々を、ICカードなどのようにモノではなく生体で正確に認証できる。これを活用することで、各個人に合わせパーソナライズされたサービス提供など、新しいスマート工場の在り方に貢献する。働く人々の状態や状況を常にIoTとAIが把握し見守り、安心安全な労働環境を整えるだけでなく、作業者の習熟度に応じたガイダンス支援や熟練工の経験値をデータとして共有化するようなことも今後期待される。
NECと同様、Cisco Systems(以下、シスコ)でも、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)活用による生産の高度化に加え、現場で働く人の安全確保と省人化への対応、遠隔地の工場への技術支援やサプライチェーンの強靭化の両面で貢献を進めていく方針だ。
CLPAの幹事会メンバーであるシスコは、CC-Link IE FieldおよびCC-Link IE TSNに対応したシスコ産業用スイッチ製品も順次拡大を進める計画を示している。“ニューノーマル”の時代における製造現場の在り方として、あるべき姿のIndustrial IoTとつながる工場が浸透する中、シスコは「イーサネットにリアルタイム性を持たせるTSNの役割はますます高まると考えており、今後のCC-Link IE TSNの発展に期待する」とコメントしている。
シスコでは、ITで培ったシステム、ヒト、モノとつなぐ技術に基づき、セキュリティを含むITネットワーク全体における機能性・運用容易性をOT(FA)領域にも提供することで、“ニューノーマル”の時代に対応したスマート工場の実現を支援している。例として、今後製造現場でのネットワークの広帯域化がますます求められる中で、10Gbpsに対応した産業用イーサネットスイッチをいち早く製品化した。
またIndustrial IoT化とつながる工場化が進むと、製造設備の稼働効率化を高めるための高度なデータのフィードバックや、工程改善、サプライチェーンの最適化などが求められるようになる。それに伴い、これまでの産業用設備群であえて行わなかったITシステム、クラウドなど外部システムとの連携や、セキュアなリモートメンテナンスが広がる見込みである。
同時に、TSNならではの対策なども含め、製造現場のサイバーセキュリティ対策の必要性は今まで以上に高まり、IT/OT(FA)の区分なく包括的なセキュリティアーキテクチャの適用が求められる。シスコでは、ゼロトラストの視点から総合的なセキュリティソリューションを提供しており、CC-Link IEおよびCC-Link IE TSNを安全に利用可能な環境支援に貢献する方針である。
Schneider Electric(以下、シュナイダーエレクトリック)は、Pro-faceブランド製品として、CC-Link IEとのSLMP(Seamless Message Protocol)製品を強化し、さらにCC-Link IE TSNへの対応を強化していく方針を示している。
シュナイダーエレクトリックでは、「EcoStruxure」という統合アーキテクチャをグローバルで推進している。業界ごとの専門知識を基にした6つのプラットフォーム(ビルディング・パワー・IT・マシン・プラント・グリッド)と4つの市場(ビル・データセンタ・FA・インフラ)に対応し、このEcoStruxure統合アーキテクチャを提案することで工場や製造現場のデジタル化を推進している。
Pro-faceはこのEcoStruxure統合アーキテクチャにおいて、Remote-HMIやPro-face Connectなどのアプリケーションやインフラを提供。また、IPC製品、HMI製品を提供することで工場の各層でのデジタル化を推進する。
具体的には下図の通り「アプリケーション、データ分析とサービス層」においてPro-face Remote-HMIでのリモート接続による現場の状況解析を提供する。さらに「エッジコントロール層」においてはPro-face IPC製品による「コネクテッド機器層」からのデータ収集ならびにクラウドサーバへのデータアップロード機能を提供する。コネクテッド機器層においてはPro-face HMI製品によるレガシーデバイスや他フィールドバス通信とSLMP接続を使用したCC-Link IE TSNへのゲートウェイ接続機能を提供する。
Pro-face HMI製品では複数のレガシーデバイスや他のフィールドバス接続デバイスの通信プロトコルをサポートしてきた。スマート工場化の枠組みを広げるためには、複数のネットワークとの連携が欠かせないが、それら通信プロトコルを活用し、ノンクリティカルデバイスに関する充実したゲートウェイとしての接続性で、CC-Link IE TSNの連携範囲拡大に貢献していく方針を示している。
「人と機械の協調」が進む中、あらためてオープンで制御通信と情報通信の融合が可能なCC-Link IE TSNの価値を訴えているのがIDECである。
IDECでは、「人と機械の最適環境を創造」により世界一安全・安心を追及・実現する企業を目指しており、人と機械の安全な環境を考え、安全性、信頼性、使いやすさに徹底的にこだわった安全関連機器を開発し、生産性と安全性を向上させる安全ソリューションを展開してきた。現在は人と機械の協調安全を志向する次世代の安全安心思想「協調安全/Safety2.0」の考え方に立ち、新たな規格づくりや安全コンサルティングといった安全の普及活動にも力を入れている。この活動の中で、協調安全を実現するために適したCC-Link IE TSNをCLPAの幹事会社として普及を推進する考えだ。
“ニューノーマル”時代において、従来の工場や工事現場のような「労働集約型」による生産活動は、作業者が密集して働く環境自体が感染症などのリスク増加の要因となり得る。そこで期待されているのが、協働ロボットのように人と同じ空間で共存しながらも効率的に生産活動を行うことができる「人と機械の協働作業環境の実現」である。全てを機械に置き換える完全自動化は生産ラインが硬直化することから、人の柔軟性と機械の作業効率や正確性を合わせた緩やかな省人化・自動化が、ニューノーマル時代に対応した次世代のスマート工場として求められ、その導入が加速する見込みだ。
ただし、その実現に当たっては1つ大きな課題があり、それは安全の確保である。従来の「機械安全/Safety1.0」の原則は、人と機械を物理的に隔離するという考え方に基づいており、その考え方の延長線上では、人と機械の協働作業環境の構築が難しい場合がある。この課題を解決すべく、高度化した情報通信技術、IoTやAIなどを駆使して人と機械が情報を交換し合い、危険を予知・回避して安全を確保するコンセプトが「協調安全/Safety2.0」で、安全にも対応したスマート工場を実現するための要件の1つと考えており、日本発の新たな提案である。
そして、これを実現するためには、できるだけシンプルでオープンな標準化されたネットワークが重要で、かつ制御通信と情報通信の融合が不可欠となる。IDECでは、これを実現するネットワークとして「制御通信と情報通信の融合」を特徴とするCC-Link IE TSNが最適だと訴える。また、CC-Link IE TSNをさらに広げるために「オープン化に向けたCLPAの活動は重要だ」(IDEC)と強調している。
ここまでCLPA幹事会社4社が考える、スマート工場化の課題や、その中でのCC-Link IE TSNなどを含む産業用ネットワークの役割について紹介してきたが、いかがだっただろうか。
各社とも口をそろえていたのが、製造現場を取り巻く従来の環境変化に加えて、COVID-19など新たな変化が加わり、新たな製造現場の構築は待ったなしという状況だということである。“不確実さ”が高まる中、こうした変化への柔軟な対応を考えた場合、CC-Link IE TSNを中心としたオープンなネットワークの役割は従来以上に高まっている。各社もその点における期待を強調していた点が特徴的だったといえる。次回はCLPA幹事会社のうちBalluff・Cognex・Molex・3Mによる、CC-Linkファミリーとデバイスレベルの情報連携について紹介する。
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提供:一般社団法人CC-Link協会
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2020年12月24日