スマートファクトリー化への取り組みが加速する中で大きな注目を集めているのが、異なる通信プロトコルを同一配線で流せる「TSN」技術である。この「TSN」にいち早く対応した産業用ネットワークが「CC-Link IE TSN」となるが、なぜ「TSN」はスマートファクトリーにおいてこれほど期待を集めているのだろうか。産業用オープンネットワーク推進団体と、いち早く「CC-Link IE TSN」対応を宣言したパートナー企業との対談により、その実践的な価値を解き明かす。
CC-Linkファミリーの普及拡大に取り組むCC-Link協会(CLPA)は2018年11月に、世界に先駆けて「TSN(Time Sensitive Networking)」に対応した産業用オープンネットワーク「CC-Link IE TSN」を発表した。「CC-Link IE TSN」は、「TSN」が持つリアルタイム性や時刻同期性などを生かし、異なる通信プロトコルを同一配線でも流せるということでオートメーション業界から大きな期待を集めている。
発表後大きな注目を集める「CC-Link IE TSN」だが、ユーザーや開発パートナーなどはどのような点に期待をし、どのようなことを実現したいと考えているのだろうか。パートナーとしていち早く「CC-Link IE TSN」対応のソフトモーション製品の開発を行うと宣言したソフトサーボシステムズ 代表取締役社長の梁富好氏と、CC-Link協会事務局長の川副真生氏へのインタビューの様子をお送りする。
―― なぜソフトサーボシステムズでは「CC-Link IE TSN」にいち早く取り組もうと考えたのでしょうか。
梁氏 もともとマサチューセッツ工科大学(MIT)でロボット制御の研究をしていましたが、既存のコントローラーがブラックボックス化されており、オープンなコントローラーがないことに悩まされていました。そこで産業向けモーションの世界にもオープンな世界を実現したいと考え、ソフトサーボシステムズを設立しました。
設立時から目指しているのは「ハードウェア」「ソフトウェア」「インタフェース」のオープン化です。「ハードウェア」についてはPCを活用することでオープン化を実現できました。さらにソフトモーション技術を開発しWindows環境でもモーション制御を可能にしたことで「ソフトウェア」のオープン化も実現できました。残された課題がネットワークなど「インタフェース」の領域でした。
その考えのもと、オープン性を持つ別のネットワーク規格に注力して取り組んできましたが、「CC-Link IE TSN」の発表を見て、これこそが真にオープンなインタフェースだと感じました。特に時分割方式で異なるネットワークを同一配線、同一機器で流せるようになるのは大きな魅力です。ソフトモーション製品を展開する中で、既存の産業用オープンネットワークでは従来、異なる通信プロトコルを組み合わせて使うことができずに、機器開発の大きな負担になっていた状況を見てきました。これが本当に解消できるのであれば、われわれが思い描いていた「3つのオープン化」に近づくことになります。
その後、CLPAや加盟企業の取り組みなどを見てきましたが、本当にオープンな方向に進もうとしているという姿勢を感じられたので、「CC-Link IE TSN」対応製品の開発を行うことを決めました。
―― CLPAとしても「オープン性」は新たなポイントだったのでしょうか。
川副氏 その通りです。「CC-Link IE TSN」を打ち出すにあたり、これまでのCC-Linkファミリーと比較して大きく変わった点が2つあります。1つは梁氏が話された通り「オープン性」です。IoT(モノのインターネット)の発展やスマートファクトリー化の動きが広がる一方で、従来はさまざまな通信プロトコルが乱立していました。こうした環境での製造データ連携を実現するためには「TSN」の活用が有効だと考え、世界に先駆けて「TSN」に対応すること、「オープン性」を徹底して打ち出していくことにしました。
もう1つは「開発手法の広がり」です。「CC-Link IE TSN」はハードウェア実装でもソフトウェア実装でも選択可能です。従来は専用のハードウェアが必要でしたが、ソフトウェアのプロトコルスタックだけで実装できるようになりました。これにより、開発手法のオープン化も実現できました。
―― ソフトサーボシステムズの顧客には半導体製造装置メーカーが多くありますが、これらのメーカーや半導体メーカーに対しどのような価値を提供できると考えますか。
梁氏 おかげさまで弊社のソフトモーション製品「WMX3」は、オープン性が評価されて多くの半導体製造装置メーカーに採用されています。「CC-Link IE TSN」のオープンな理念に共感した点はありますが、われわれもビジネスを行っているので顧客への価値や課題解決につながらないのであれば取り組むわけにはいきません。われわれはモーション制御は提供できますが、実際に駆動するサーボモーターやI/Oなどさまざまな機器がそろって初めて価値を実現できるため、「CC-Link IE TSN」が発表されてしばらくは様子を見ていました。
本当の意味で「CC-Link IE TSN」の可能性を感じたのは、三菱電機が「CC-Link IE TSN」に対応したACサーボシステム「MELSERVO-J5シリーズ」を発表してからです。制御通信周期31.25μsを実現し、ビジョンセンサーとの高速同期通信を行えるなど、「CC-Link IE TSN」の性能をいかんなく発揮できる機能が盛り込まれていたことで可能性をリアルに感じることができました。
これらの機能を使うことができれば、装置内の省配線化などを実現しつつより高演算周期による高速高精度な動きを実現できるようになります。こうした価値はわれわれのメイン顧客である半導体製造装置でこそ特に生きると考えます。「CC-Link IE TSN」の特長と弊社のソフトモーション製品「WMX3」を組み合わせることで、今後ますます高度化する半導体製造装置に新たな制御性能や機能を提案できるようになると強く感じたのが、いち早くソフトマスターを開発する動機になりました。
例えば、半導体製造装置などでは1つの装置内でも高速通信が必要になる場面と低速通信でもよい場面があります。従来はこうした場合、同じ通信規格でも速度ごとにケーブルやマスターなどが必要になるケースが多かったのですが、「CC-Link IE TSN」を使えば、異なる通信プロトコルだけでなく、異なる通信速度でも同じハードウェア基盤で通信を行えます。装置内の配線を大幅にシンプル化できますし、その分のスペースを他の機能に活用したり、装置や制御盤の小型化に貢献したりすることができるようになります。
また、半導体製造装置では、画像検査などを工程内に非常に多く組み込むようになっています。従来はこうした映像伝送をするのにも別のハードウェア基盤が必要になりましたが、「CC-Link IE TSN」を使えば、モーション制御に影響を与えることなく同一配線で画像や映像の検査データなどを収集することができます。こうした点も大きな魅力です。
われわれの顧客も「TSN」やそれによって得られる価値については非常に高い関心を寄せています。これらを踏まえて、現在「CC-Link IE TSN」のソフトマスターの開発を進めています。2019年11月27〜29日に開催されるIIFES2019では、「CC-Link IE TSN」のプロトタイプソフトマスターを搭載した「WMX3」による多軸同期制御の実働デモンストレーションをCLPAブース内に出展する予定です。その後、2020年3月頃にはベータ版をリリースし、2020年4〜6月頃にテストを行い、2020年7月頃に正式に「CC-Link IE TSN」に対応した「WMX3」をリリースするという計画を立てています。
―― ソフトウェアサーボシステムズから見てCLPAや「CC-Link IE TSN」に期待することや要望したいことはありますか。
梁氏 大きく2つの点で期待したいことがあります。1つは、CLPAに限ったことではありませんが、各産業用ネットワーク団体との協力を進めてほしいということです。それぞれの出自があり技術的に異なる点があるのは理解していますが、装置メーカーやエンドユーザーにとってはどのネットワークでも気にせずに求める機能や性能に合わせて使いたいというのが本音だと思います。技術としての「TSN」の登場は、こうした市場の要望に沿うものです。他の産業用ネットワーク団体とも協力し、オープンな環境作りの早期実現に期待したいと考えています。
もう1つは、成功事例が必要だということです。通信プロトコルは業界の大手が全面的に採用すれば、一気に業界の地図が変わるようなことが起こります。例えば、現状では「CC-Link IE TSN」で全面的に装置内のシステム構築をしたいと考えても、対応機器のない製品カテゴリーもあります。業界大手が採用を決めれば、こうしたシステム構成に関連するメーカーが全て対応を進めることになり、一連のシステムが「CC-Link IE TSN」で構築できるようになります。そうなるとエンドユーザーまでもが「CC-Link IE TSN」で謳っている価値を本当に享受できるようになり、さらに採用が広がるようになります。まずはこうした成功事例を構築することが重要だと考えています。
―― CLPAとしてはこれらの点をどう考えていますか。
川副氏 梁氏のお話の通りで「他ネットワーク団体との連携」と「成功事例の創出」は、CLPAでも力を入れて進めているところです。
「他ネットワーク団体との連携」については、これまで以上に積極的に取り組んでいきます。今後、「TSN」規格を適用した産業用オープンネットワークが主流となっていくとわれわれは考えています。他ネットワークとの相互運用性・接続性強化を進め、装置メーカーやエンドユーザーが求めるオープンな環境構築に貢献していきます。
「成功事例の創出」については、幅広い業界で「CC-Link IE TSN」を採用して頂けるよう、対応機器拡充が急務であると考えています。そのために、開発ツールやデバイスそれぞれのパートナーに対する技術サポートや、国内外の展示会、セミナーでのプロモーション強化を進めています。IIFES2019では、ソフトサーボシステムズ様をはじめ、各種パートナーが開発中の「CC-Link IE TSN」対応製品や、アプリケーション事例を展示させて頂きます。今後ますますパートナーと一体となって、「CC-Link IE TSN」の価値を、国内外の装置メーカーやエンドユーザーへお届けしたいと考えています。
CC-Link協会では、2019年11月27〜29日に東京ビッグサイトで開催される「IIFES2019」にソフトサーボシステムズ様はじめ、パートナー企業とともに出展します。
詳細についてはこちらのWebサイトでご確認ください。
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提供:一般社団法人CC-Link協会
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2019年12月10日
世界1位の製造国を目指して“智能制造(スマートファクトリー)”を推進する中国。ただ、中国の工場でも課題となっているのが、さまざまな通信プロトコルが乱立する環境での製造データ連携だ。この課題を解決する技術として「TSN」に注目が集まるが、産業用オープンネットワークとしていち早く「TSN」技術を採用した「CC-Link IE TSN」への期待感が高まっている。中国・上海で開催された「中国国際工業博覧会」での「CC-Link IE TSN」の動向についてお伝えする。
世界で初めて「TSN」技術に対応した産業用ネットワーク規格として大きな注目を集める「CC-Link IE TSN」。開発パートナーの拡大など、普及拡大に向けて着実に環境整備が進む。「産業オープンネット展2019」ではこれらの進捗状況が披露され、広がる「CC-Link IE TSN」の世界が示された。
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スマート工場化への取り組みが加速している。しかし、その中で課題となっているのが工場内に存在するFAシステムとITシステムの融合の難しさである。工場内に存在する連携不能なシステムからどう一元的にデータを吸い上げるのか。その先でどう融合を進めていくのか。これらの課題解決に貢献する産業用ネットワークの新規格が発表された。「CC-Link IE TSN」である。