FAとITを“真の融合”へ、異種プロトコルも通すCC-Link IE TSNの真価産業用ネットワーク

スマート工場化への取り組みが加速している。しかし、その中で課題となっているのが工場内に存在するFAシステムとITシステムの融合の難しさである。工場内に存在する連携不能なシステムからどう一元的にデータを吸い上げるのか。その先でどう融合を進めていくのか。これらの課題解決に貢献する産業用ネットワークの新規格が発表された。「CC-Link IE TSN」である。

» 2018年11月28日 10時00分 公開
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 IoT(モノのインターネット)やAIを活用したスマート工場化の動きが加速する一方である。「2018年版ものづくり白書」を見ても、製造現場でのデータ収集を行っているとした企業の比率は67%となるなど、工場内でデータ活用に取り組む機運は高まっているといえる。しかし、「データを一元的に正しく収集できているか」という点については、まだまだ課題を抱えている企業が多いのが現実はないだろうか。

 それらの問題の1つに、工場内に存在するさまざまな機器やシステムから一元的にデータを効果的な形で収集するのが難しいという点がある。工場内ではもともと一元的にデータを扱うことを想定されていたわけではないので、機器を中心としてさまざまな個別のシステムが存在することになる。同様の「異種システム環境」は機器と機器を結ぶ産業用ネットワークにも存在する。機器を結び付けて制御や情報収集などを行う産業用ネットワークは数多くがイーサネットをベースとしているものの、産業向け対応をする際に、さまざまな団体が独自規格を形成したために、それぞれが共通のネットワークシステムを構築できない。

 そのため、データを一元的に吸い上げるためには複数のネットワークシステムを並行して構築するような負担があった。これらの「異種環境からデータをどう集めるのか」という課題が製造現場には重くのしかかり、スマート工場化を進める大きな障壁となっていたのである。

「CC-Link IE TSN」の持つ意味

 これらの課題を解決するため、CC-Link協会から新たな規格として2018年11月に仕様策定が発表されたのが、「CC-Link IE TSN」だ。

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 CC-Link協会は産業用ネットワークである「CC-Link」を推進するために生まれた団体である。2007年には産業用イーサネットとして業界で初めて1Gbpsを実現した「CC-Link IE」をリリース。その後、コントローラー間を結ぶ「CC-Link IE Control」、コントローラーと現場機器をつなぐ「CC-Link IE Field」、モーション制御の「CC-Link IE Field Motion」、安全制御の「CC-Link IE Safety」とバージョンを増やしてきたが、高速性能が評価を受け、アジア地域を中心に自動車や液晶などの業界で普及が進んでいる。

 今回新たに発表された「CC-Link IE TSN」は、イーサネット規格の拡張版である「TSN(Time Sensitive Networking)」に対応したことが特徴である。

 「TSN」は、「IEEE 802.1AS」など複数の国際標準規格から構成されており、イーサネットをベースにしながら時間の同期性を保証し、リアルタイム通信と非リアルタイム通信の混在を可能にする技術だ。

photo CC-Link協会 事務局長の川副真生氏

 TSNの特徴は、データリンク層のレイヤーに組み込むため既存のハードウェア設備などがそのまま利用できることである。物理層などはそのままに、時刻同期や優先的に通すデータを制御する機能などを加えることで、リアルタイム性を確保している。さらに、時分割が可能であることから、同じケーブルやスイッチなどのハードウェアでも時間ごとに異なるプロトコルの通信を通すことなども可能である。

 これらの特徴から、先述したような複数の通信プロトコル環境が乱立する工場内での利用で効果を発揮すると期待されているわけである。CC-Link協会 事務局長の川副真生氏は「CC-Linkは今までもオープンな規格でしたが、スマート工場化の動きが強まる中で、人も機械もさまざまなものがつながる必要が出てきました。その中で従来以上にオープンなネットワークを求める動きは強くなっています。産業用ネットワークにも技術や性能だけでなく、汎用的に使えるものを求める声が強くなっていました。そこでTSNに目を付けたというわけです」とTSN採用に向けての流れについて語る。

photo 「CC-Link IE TSN」のコンセプト(クリックで拡大)出典:CC-Link協会

「CC-Link IE TSN」の4つの特徴

photo CC-Link協会 テクニカル部会 部会長の有馬亮司氏

 TSNといえば、ネットワーク経由で制御を行うようなリアルタイム性が最大の魅力とされてきた。しかし、産業用ネットワークでの使用を考えた場合、CC-Link協会 テクニカル部会 部会長の有馬亮司氏はリアルタイム性よりも大きな利点があると訴える。

 「工場の現場などでの現状を考えた場合、まずはリアルタイム性よりも時分割を生かした複数ネットワークプロトコルの同時通信の方が重要度は高いと考えます。省配線化など目に見える成果をすぐ出せるところが良い点です」と有馬氏は説明する。

 「CC-Link IE TSN」は、従来の「CC-Link IE Control」「CC-Link IE Field」「CC-Link IE Field Motion」「CC-Link IE Safety」などを集約する形での展開を予定しているが、主に4つの特徴がある。

 1つ目は制御通信に影響を与えずに情報通信を混在させることができるという点である。機器制御のサイクリック通信に優先度を与え、情報通信よりも優先的に帯域を割り当てることができる。リアルタイムなサイクリック通信で機器を制御しながら、ITシステムと情報をやりとりするネットワークが構築可能である。例えば、機器を制御しながらビジョンセンサーや監視カメラのデータなどを合わせて通信で送り、制御情報と映像情報を組み合わせて活用するようなことも可能である。

photo FAとITの融合を実現する「CC-Link IE TSN」(クリックで拡大)出典:CC-Link協会

 2つ目が、システムの早期立ち上げや高度な予知保全が行える点である。「CC-Link IE TSN」はネットワーク機器の診断容易化を実現するためにSNMP(Simple Network Management Protocol)に対応した。従来は個別のツールを必要としていた機器の状態収集を汎用のSNMP監視ツールにより一括で収集、分析可能となる。そのため、システムの立ち上げ時期や運用時などの機器動作状態の確認にかかる工数を削減できる。さらにTSNで規定された時刻同期プロトコルにより、CC-Link IE TSN に対応した機器は機器間の時刻のズレを補正できる。異常発生時などの原因究明と早期復旧なども簡単に行える他、AIを活用した予知保全などにも簡単に活用できるデータが集められるようになる。

photo 正確な時系列データを記録できる強み(クリックで拡大)出典:CC-Link協会

 3つ目が、通信周期の異なる機器をそれぞれの性能に最適な形で使用できるという点である。「CC-Link IE TSN」では、通信周期の異なる機器をそれぞれの性能に応じて組み合わせて使用することが可能になる。同一のマスタ局に接続する機器は、従来はネットワーク全体で同じ通信周期で運用する必要があったが、「CC-Link IE TSN」では複数の通信周期で運用することができる。これにより、サーボアンプのような高速性が要求される機器と、リモートI/Oなど低速な通信周期の機器が混在する装置でも、サーボのモーション制御のパフォーマンスを維持できるため、装置性能を向上させて、生産性を高めることが可能となる。

photo モーション制御性能を最大化することが可能(クリックで拡大)出典:CC-Link協会

 4つ目が、100Mbpsでも1Gbpsでも、ハードウェア実装とソフトウェア実装の選択が可能だという点だ。従来の「CC-Link IE」は1Gbpsに対応しマスタ機器とスレーブ機器いずれにも専用のASICかFPGAを用いてハードウェア実装をする必要があった。しかし、「CC-Link IE TSN」ではソフトウェア実装に新たに対応したことが特徴だ。汎用のイーサネットチップにソフトウェアのプロトコルスタックで実装できるようにした。このように実装の選択肢を広げ、さらに1Gbpsだけでなく100Mbpsにも対応可能とすることでさまざまな機器への実装を可能とする。

 川副氏は「グローバルで見た場合、PLCでの制御が一般的な業種や地域、産業用PCとソフトウェアPLCによる制御が一般的な業種や地域など、さまざまな環境がある。また、高性能で高機能な駆動機器から、少点数で低価格の入出力機器まで幅広い機器が必要とされています。そのため、開発ベンダーが製品性能やコストに最適な開発手法を選択することができ、ユーザーにも幅広い製品ラインアップを提供することが可能だと考えています」と述べている。

 これらの4つの特徴はある意味で、ユーザー視点のオープン化を進めたために生まれたといえる。CC-Link協会 マーケティング部会 マネージャーの竹村優大氏は「『CC-Link IE TSN』の最大の特徴はもちろん、TSNに対応したことですが、効率的なプロトコルにより従来CC-Link IEの性能・機能をさらに向上させたこと、またそれ以外にもソフトウェア実装への対応や、機器情報の取得など、スマート工場の中で最適に使えるネットワークとして大きく進化させた点が特徴です。グローバルのユーザー視点でオープン性を向上させることができたと考えています」と意義について語っている。

半導体製造装置やバッテリー製造装置での採用に期待

photo CC-Link協会 マーケティング部会 マネージャーの竹村優大氏

 これらの進化した「CC-Link IE TSN」だが、どのような用途での使用が期待されるのだろうか。竹村氏は用途については「高速なモーション制御機能により、装置系が要求される分野はパフォーマンスが高まると考えています。また効率的なプロトコルで高速な制御通信を実現したため、装置自体のパフォーマンスを最大限に活用できると考えています。さらに今回のTSN技術により、制御通信で使用せず空いている帯域を有効に活用できるため、例えばビジョンなどの情報データが増えても装置の高速な制御には影響を及ぼしません。特に半導体やバッテリーの製造装置などでの採用を期待しています」と語る。

 さらに、制御と監視や検査などを1つのネットワークで実現可能となっていることから、サーボモーターがワークを移動させている最中にビジョンセンサーでワークの位置を把握するというようなことが1つのネットワーク上で可能となり、タクトタイムの向上や省配線が実現できる。竹村氏は「AIなどを含め非構造データの活用が進む中、ビジョン関連のデータ活用はさらなる広がりを見せています。これらを有効活用できるようなネットワーク基盤としてアピールしていきたいと考えます」と述べている。

photo モーションとビジョンの組み合わせシステムのイメージ(クリックで拡大)出典:CC-Link協会

 今後は、さらなる適用分野の拡大を目指し、TSN技術を介した相互運用性や接続性の強化を進める他、光ケーブルへの対応により、長距離および高ノイズ耐量を必要とする分野への拡大に取り組んでいく方針である。さらに、「CC-Link IE」で取得済みの国際標準規格「IEC61784」をはじめ、半導体およびFPD業界国際スタンダード「SEMI」、中国や韓国などの国家規格取得を進めていく方針を示している。

 有馬氏は「スマートファクトリーではFAシステムとITシステムの融合は必須となります。しかし従来は、工場や生産現場において、さまざまなネットワークが混在し、それらが個別で機能し融合が難しい状況でした。そのためにデータを効率的に取得できなかったり、活用できなかったりしたところがありました。しかし、『CC-Link IE TSN』を活用することで、こうした障壁を取り除き、より多くの製造現場で、データ活用やビジョン活用、エッジでの分析などが広げることができます。現場の複雑性をシンプルにすることが産業用ネットワークの役割です。製造業のスマートファクトリー化をさらに推し進める原動力となりたいと考えています」と抱負を述べていた。

photo 制御通信と情報通信の融合を実現(クリックで拡大)出典:CC-Link協会

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提供:一般社団法人CC-Link協会
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2018年12月27日

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