産業用オープンネットワーク団体のCC-Link協会では、新たにOPC Foundationの前会長兼事務局長であるトーマス・J・バーク氏をGlobal Strategic Advisorとして招聘し、グローバル化やオープン化を加速させる方針を示す。バーク氏のインタビューから“これからの産業用ネットワーク”に求められるものを解き明かしていく。
データを活用した「つながる世界」があらゆる産業で広がっている。「つながり」を実現する基盤の1つが産業用ネットワーク技術となるが、産業用ネットワークの世界は今後どうなっていくべきなのだろうか。
こうした「変化」の中でさまざまな取り組みを進めているのが、CC-Link協会だ。CC-Link協会は2018年11月、世界に先駆けて「TSN(Time-Sensitive Networking)」技術を採用した次世代産業用オープンネットワーク「CC-Link IE TSN」を発表し、関連技術やパートナー対応製品の普及に取り組んでいる。「CC-Link IE TSN」の特長は、イーサネットをベースにしながら時間の同期性を保証しリアルタイム性を確保できる点だ。特に時分割機能により同一幹線上で異なる複数のネットワークが混在可能である点、タイムスタンプを自動付与できる点などに注目が集まり、IoT(モノのインターネット)活用に最適だと見られている。
ただ、こうした特長を生かすには、グローバルでオープンな協調が欠かせない。CC-Link協会では、世界各地の活動拠点やCC-Linkファミリーの普及体制の整備を進めることでグローバル対応を強化するとともに、新たに2020年4月に、OPC Foundationの前会長兼事務局長で、創設メンバーの一人でもある、Thomas J. Burke(トーマス・J・バーク)氏を、Global Strategic Advisorとして招聘した。バーク氏は、多種多様な接続機器やアプリケーションにわたり、マルチベンダー間の連携に力を注いできた人物である。
バーク氏を迎えた狙いについて、CC-Link協会 事務局長の川副真生氏は「主にオープン化、グローバル化、ビジョン発信の3つの理由があります」と語る。「オープン化」については「『CC-Link IE TSN』の特長は相互接続性にありますが、その中ではオープン性がより重要になると考えています。バーク氏の前職であるOPC Foundationでのマルチベンダー・マルチプラットフォームを推進した知見が生きると考えています」と川副氏は考えを述べている。
また、「グローバル化」「ビジョン発信」については、「CC-Linkファミリーはアジアや日本では定着していますが、欧米ではアジアに比べ後進的であり、こうした地域でのプレゼンス向上は大きなテーマだと考えています。また、スマート工場化が進展する一方、5Gなどの新たな技術が次々に登場する中で、新たな産業用ネットワークの姿を示すビジョン発信も必要になってきています。こうした役割をバーク氏に担ってもらいたいと考えています」と川副氏は語る。
では、さまざまな立場で産業用ネットワークの世界を見てきたバーク氏にとって、「CC-Link IE TSN」やこれからの産業用ネットワークについては、どのように見えているのだろうか。ここからは、バーク氏のインタビューをお届けする。
MONOist ここまでの経歴と、CC-Link協会でGlobal Strategic Advisorを務めることになった経緯について教えてください。
バーク氏 大学では数学やコンピュータエンジニアリングを専攻していましたが、産業用ネットワークにかかわるようになったのは、Rockwellグループに買収される前のAllen-Bradleyに入社してからです。そこで、機器の情報を取得し可視化するコミュニケーションドライバーの開発など、プロセスコントロールに関するハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアの開発に携わってきました。当時は、工場の中でも異なるデバイスで情報のやりとりをする重要性が注目されるようになり、Rockwellグループでもさまざまなパートナーシップで通信技術の標準化に取り組んでいました。
1995年に現在のOPC Foundationとなるタスクフォースの創設メンバーとなりました。OPC Foundationの目的は、制御技術(OT)におけるマルチベンダーの相互運用性を実現することです。2004年には今大きな注目を集めている「OPC UA」を発表し、「コンパニオンスペック」などを通じ、業界間連携を進めてきました。
OPC Foundationにいた頃から「TSN」は次世代を担う重要な技術になると注目していました。その中でCC-Link協会が業界でいち早く方針を明確化し、パートナー各社が対応製品を世に送り出したのを見て、衝撃を受けました。その後、CC-Link協会への参画の誘いを受けたことから、一緒にこの技術をもり立てていくことを決めました。
MONOist 「TSN」技術には早くから多くの注目が集まっており、産業用ネットワーク団体も対応への方向性は示しています。その中でCC-Link協会の取り組みを評価し、一緒に取り組むことになった理由を教えてください。
バーク氏 確かに「TSN」技術には多くの期待や注目が集まっており、多くの企業や団体がこれらを取り込んだ技術や規格の表明などを行っているのは理解しています。しかし、こうした標準化技術は「技術」として存在を示すことよりも、製品ロードマップに落とし込んで世に出すということが非常に難しいのです。
しかし、CC-Link協会は2018年の時点で、将来のビジョンを描き、実際に規格を定めて世に発表しました。そして、この規格に対応したパートナー製品や開発手法なども、既に世の中に出てきています。この「将来像」と「リアルなモノ」の両方を出せたことが重要です。実際に技術の改善点などは世に出してみないと分からないことが多くあります。産業用ネットワークは、より多くの製造現場で採用されることで、知見の蓄積につながり、さらなる技術革新が見込めると考えます。
産業用ネットワークは機器と機器の間に存在するもので、新しいネットワーク規格を活用するためには、ユーザーや機器ベンダーが採用するということはもちろんですが、機器を構成する部品や開発ツールなどさまざまな企業が関連することになります。機器の入れ替えタイミングもあり、実稼働までに3年以上かかるケースもよくあります。
そういう意味で、パートナー対応製品をいち早く世に送り出すことに成功したCC-Link協会が得られる知見は非常に大きなものがあります。CC-Link協会から世界へ「TSN」技術を広げていくことが、現在の産業用ネットワーク業界全体にとっても大きな価値を持つと考えています。
MONOist 「CC-Link IE TSN」普及のためには何が必要だと考えますか。
バーク氏 私のCC-Link協会での主な役割は「グローバル市場における認知度向上とシェア拡大」「市場戦略の提案」「北米市場におけるパートナー数拡大」「ベンダーやユーザーと一体となった活動促進」「規格・標準化団体との相互連携」の5つです。CC-Linkファミリーは日本を含むアジアでの導入率は高いのですが、欧米ではそれぞれで強いベンダーやネットワーク規格があるため、浸透度はそれほど高くありませんでした。これらを高めていくのが大きなミッションだと考えています。
また、業界内外での連携を広げていくことも重要だと考えます。例えば、自動車、半導体、食品など、「CC-Link IE TSN」の活用が期待されているそれぞれの業界団体との連携が、普及のためには重要になります。こうしたグローバル化や業界間連携には、OPC Foundationなどでの従来の知見が生かせると確信しています。
MONOist 「CC-Link IE TSN」も含め、将来の工場および産業用ネットワークのあるべき姿についてどう考えていますか。
バーク氏 ネットワーク団体の基本的な役割は、価値のある新たな技術を展開していくことだと考えています。私はその“ゲームチェンジ”につながる大きな技術が「TSN」だと考えているわけです。では、「TSN」技術によって何がもたらされるかというと、さまざまな業界によって異なるネットワークを1つに束ねられ、データをシームレスに使えるようになる世界がいよいよ近づいてきたということです。
これを前提にさらにその先の中長期的な視野で必要になると考えているのが、ネットワークの設定や構築をもっと簡単にしていくということです。簡単になってきているとはいえ、現在のネットワークの設定や構築は大変です。ユーザーはさらなる使いやすさを求めています。理想はあらゆる機器がプラグ&プレイでつながるという姿です。複雑な設定をユーザー側で行わなくてよいようにするのが目指すべき形だと考えています。
IEEEの会議などにもよく参加しますが、その中でも産業用の技術を一般消費者向けで活用したり、一般消費者向けの技術を産業用で活用したりすることで、相互に発展していくという動きについて話題になります。既にコンシューマーエレクトロニクスの領域では、PCの周辺でプラグ&プレイの世界が幅広い環境で実現できています。同様の姿を産業用の領域でも実現できるようになれば、さらにデータ活用の幅も広がります。
また、もう1つ強調しておきたいのがセキュリティです。あらゆるものがつながる世界を目指す中で、セキュリティの重要性はかつてないほど高まっています。セキュリティ対策の意味でも、ネットワーク技術はさらに重要な役割を担うことになります。また、産業用ネットワークではセーフティの要素も求められます。安全性を確保していくというのも重要な要素となると考えています。
ユーザー目線でのソリューションを提供するため、これまでの知識と経験の全てを、「CC-Link IE TSN」を含む最新技術の普及に生かしていきます。
さて、ここまでバーク氏のインタビューをお伝えしたが、いかがだっただろうか。現在は、従来の産業構造からデータを基軸とした新たな産業構造に変革する「第4次産業革命」の中にある。本当の意味でデータ活用を進めるためには従来バラバラだったシステムを1つにまとめた「つながる世界」が必要だ。CC-Link協会が目指しているのはこうした「つながる世界」の早期実現である。
ただ「つながる世界」を実現するといっても、その道のりは簡単なものではない。最終的に、1つ1つを技術的に結んでいく必要があるとともに、組織間や業界間など「人」の関係も地道に結んでいく必要がある。これらを具体的に進めていくための、技術革新の1つが「TSN」技術を採用した「CC-Link IE TSN」であった。そして、組織間やグローバル連携などの進める取り組みの1つとして、これまでマルチベンダー間の連携に力を注いできたバーク氏を招聘したわけだ。「つながる世界」実現に向け一歩一歩着実に歩みを進めるCC-Link協会の活動に今後も注目である。
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提供:一般社団法人CC-Link協会
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2020年6月25日
スマート工場化の流れの中で大きな注目を集めている「TSN」がいよいよ実用フェーズに入りつつある。産業用ネットワークでいち早く「TSN」技術を適用した「CC-Link IE TSN」の、対応製品および開発ツールが広がりを見せている。オートメーションと計測の先端技術総合展「IIFES2019」での「CC-Link IE TSN」の動向を紹介する。
スマートファクトリー化への取り組みが加速する中で大きな注目を集めているのが、異なる通信プロトコルを同一配線で流せる「TSN」技術である。この「TSN」にいち早く対応した産業用ネットワークが「CC-Link IE TSN」となるが、なぜ「TSN」はスマートファクトリーにおいてこれほど期待を集めているのだろうか。産業用オープンネットワーク推進団体と、いち早く「CC-Link IE TSN」対応を宣言したパートナー企業との対談により、その実践的な価値を解き明かす。
世界1位の製造国を目指して“智能制造(スマートファクトリー)”を推進する中国。ただ、中国の工場でも課題となっているのが、さまざまな通信プロトコルが乱立する環境での製造データ連携だ。この課題を解決する技術として「TSN」に注目が集まるが、産業用オープンネットワークとしていち早く「TSN」技術を採用した「CC-Link IE TSN」への期待感が高まっている。中国・上海で開催された「中国国際工業博覧会」での「CC-Link IE TSN」の動向についてお伝えする。
世界で初めて「TSN」技術に対応した産業用ネットワーク規格として大きな注目を集める「CC-Link IE TSN」。開発パートナーの拡大など、普及拡大に向けて着実に環境整備が進む。「産業オープンネット展2019」ではこれらの進捗状況が披露され、広がる「CC-Link IE TSN」の世界が示された。