ここからは製造業向けのDX戦略として「プラットフォームがもたらすメリット」を考察していきます。ここでは、同一プラットフォーム上にあるアプリケーションの組み合わせで「エコシステム」を構築することを前提とします。その場合、筆者は以下の3つの利点があると考えます。
生産活動ではさまざまなシステムが必要になります。設計用のCADやPLM(Product Lifecycle Management)システム、現場管理のMES(製造実行システム)、生産スケジューラー、生産管理システムなどです。こうしたシステムを個別に導入した場合、システム間のデータを連携するためのインタフェースの構築が必要です。一方、同一プラットフォーム上で展開するアプリケーションでは、それぞれのデータ連携が標準仕様とされるのが一般的です。これはプラットフォームが定めた設計仕様に基づいて、各アプリケーションが開発されているためです。そのため、データ連携のためだけの新たな開発は不要となります。
同一プラットフォーム上であれば、各アプリケーションのトランザクションデータは一元化されたデータベースに収納することができます。データベースを一元管理するメリットは、システムの垣根を越えた複数データを基にデータ分析が可能になることです。例えば、販売管理システムの持つデータと生産管理システムの持つデータを結び付けたKPI(重要業績評価指標)分析が容易に行えるような利点があります。
データの重要性が高まる中で、これらのデータを守るセキュリティ対策は必須となります。顧客データ、販売データ、部品表、製造原価など、製造業が保有するデータは多岐にわたります。こうした重要なデータのストレージとしても、高度なセキュリティ機能の重要度は高まっています。しかし、これらを守る高度なセキュリティ対策のために個々の企業で大規模な投資をし続けることは難しくなりつつあります。そこで大規模なセキュリティ対策を取り続けられるプラットフォーマーに預けることでデータの安全を確保するということも利点だといえます。
2020年からは5Gサービスが開始されました。従来の4Gの20倍ともいわれる超高速通信は業務システム運用にも大きな変化を生むことが予見されます。コロナ禍によりリモート接続機会が増加し「いつでも・どこからでもストレス無くつながるシステム」の実現が求められる中で、セキュリティの確保をどうするのかというのは考えていかなければならない大きなテーマだと考えます。
今回の内容はいかがだったでしょうか。今後、B2B領域でもプラットフォーマー間の競合が本格化する可能性が高いと思われます。同時にERP(Enterprise Resources Planning)システムに代表される業務管理アプリケーションだけでなく、生産設備を制御する現場系システムもプラットフォームに移行する時が来るかもしれません。
次回は「クラウドアプリケーション活用戦略」と題して、業務用アプリケーションにおけるオンプレミス製品とクラウド製品の比較、そしてクラウドアプリケーションの将来像について考察していきます。
栗田 巧(くりた たくみ)
Rootstock Japan株式会社代表取締役
【経歴】
1995年 マレーシア・クアラルンプールにてDATA COLLECTION SYSTEMSグループ起業。その後、タイ・バンコク、日本・東京、中国・天津、上海に現地法人を設立。製造業向けERP「ProductionMaster」と、MES「InventoryMaster」の開発と販売を行う。
2011年 アスプローバとの合弁会社Asprova Asiaを設立。
2017年 DATA COLLECTION SYSTEMSグループをパナソニックグループに売却し、パナソニックFSインテグレーションシステムズの代表取締役に就任。
2020年 クラウドERPのリーディングカンパニーRootstockの日本法人であるRootstock Japan株式会社の代表取締役就任。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.