新型コロナウイルスに苦しむ米国、遠隔医療にどう取り組んでいるのか海外医療技術トレンド(58)(2/3 ページ)

» 2020年04月17日 10時00分 公開
[笹原英司MONOist]

遠隔医療の普及を後押しするデータ相互運用性の標準化政策

 本連載第37回で触れたように、米国医師会は、モバイルヘルスの導入推進活動と同時に、保健医療データの相互運用性標準化活動に取り組んできたが、連邦政府機関も、データドリブンアプローチを支えるプラットフォーム整備策を強化している。

 2018年4月24日、保健福祉省(HHS)のメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)が、オバマ政権時代の電子健康記録インセンティブ(Meaningful Use)プログラムに代わるルールとして、病院の価格情報へのアクセスの向上を通じで患者に権限を付与するとともに患者の電子健康記録へのアクセスを改善し、供給者が簡単に患者との時間を費やせるようにすることを目的とした「相互運用性の促進(Promoting Interoperability)」ルールの改定案を発表した(関連情報)。

 その後2020年3月9日、米国連邦政府は、保健福祉省からの規制として、「国家医療IT調整室(ONC)21世紀治療法最終規則」および「CMS相互運用性および患者アクセス最終規則」を公表している(関連情報)。

 このうち、ONC規則(関連情報)を通じて、HHSは、国際HL7協会が策定した電子保健医療情報の相互運用性に関わる標準規格であるFHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)4.0.1版を採用し、認証電子健康記録技術プログラムの一部であるアプリケーションプログラミングインタフェース(API)の利用を支援する方針を打ち出した。これにより、患者は、スマートフォンを利用して、医師の電子健康記録から重要な医療情報にアクセスすることが可能になるとしている。なお、HL7-FHIRでは、「6.0 セキュリティとプライバシーのモジュール」の項目に、セキュリティおよびプライバシーの要求事項、共通のユースケース、開発ロードマップなどが記述されている(関連情報)。

 他方、CMS規則(関連情報)を通じて、HHSは、規制対象となる全ての保険者が、患者アクセスAPI経由で請求・照合データの患者による利用を可能にすることを保証する方針を打ち出した。患者が必要な時に必要な方法で、健康記録を付与することによって、医療におけるよりよい意思決定者や知識に基づくパートナーとなることを促進すると同時に、一層コーディネートされた、質の高い、費用対効果のあるケアが可能になり、よりよい医療アウトカムにつながるとしている。

 このような医療データ相互運用性の標準化政策に呼応して、米国医師会は、同じ3月9日、データ交換における効率化、医師の負荷低減、患者のデータに対する制御およびアクセスの3つの観点から、見直し作業を行うことを表明している(関連情報)。

CARES法のコロナウイルス支援策の柱に組み込まれた遠隔医療

 その後3月27日、米国連邦議会は、総額2兆米ドル超の財政支出を含む「コロナウイルス支援・救済・経済保障(CARES)法案」を可決し、同法は大統領の署名を経て成立した(関連情報)。CARES法には、新型コロナウイルス緊急対応下の遠隔医療導入に関連して、以下のようなインセンティブ施策が組み込まれている。

  • 遠隔医療助成プログラム
  • 自己負担額の高い遠隔医療サービス向け医療保険の免除
  • メディケアの遠隔医療要件の緩和
  • 連邦政府認定保健センター(FQHCs)および地方保健診療所(RHCs)向けメディケア遠隔医療サービスの強化
  • 在宅血液透析患者向けメディケア遠隔医療の拡張
  • メディケア・ホスピスケア再認証プロセス向け遠隔医療の利用
  • メディケアにおける在宅保健医療向け通信システム利用の推奨

 例えば医療機関は、HL7-FHIRやAPIなどの標準規格を採用して医療データの相互運用性を確保しながら、共通のプラットフォーム上で、新型コロナウイルス緊急対応向け遠隔医療システムを構築・導入すると、前述のONC規則/CMS規則およびCARES法双方の経済優遇策を活用できることになる。

 また、HL7-FHIRに関しては、アマゾン(Amazon.com)、グーグル(Google)、IBM、マイクロソフト(Microsoft)、オラクル(Oracle)、セールスフォース(Saleforce.com)など主要プラットフォーム事業者が、オーブンな医療情報の標準規格として普及・促進することを表明しており、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)などの既存リソースを横展開できる環境が整備されつつある。Medtech/Healthtechスタートアップ企業が参入できる市場機会も広がりつつある。

 一方、日本では、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(関連情報)や、内閣府・規制改革推進会議の「新型コロナウイルス感染症患者の増加に際してのオンライン技術の活用について」(関連情報)などで、新型コロナウイルス対策としてのオンライン診療に関する議論が活発化している。

 ただし、日本の伝統的な対面診療から代替手段への移行に焦点が当たっており、オンライン診療の患者生成データと既存の医療情報システムの間のデータ相互運用性の標準化や医療データ2次利用、APIエコノミーモデル、価値に基づく医療(VBC:Value-Based Care)といった議論まで至っていない。米国のようなエコシステムのグランドデザインとスピード感ある施策が必要だろう。

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