新たに開発した最終製品検査システムは、ベビーチーズ充てん包装機(4列)に組み合わせて設置する。カメラ8台と特殊照明16台、GPU搭載のエッジコンピュータ4台、位置検出センサー8台、エアーによる排出装置4台、制御用コンピュータ1台、制御用タッチパネル1台という構成である。
ベビーチーズはナチュラルチーズを砕いて高温で溶かし、型に流し込んで包装するという工程で作られている。充てん包装機はこのチーズをアルミホイル型に流し込む工程と、その型を折りたたんで包装するという工程で構成されている。最終製品検査システムでは、その包装が基準通りに行われているかどうかを判定するというものである。充てん包装機から4つの列で高速に流れてくる製品を、位置検出センサーで認識しながら、前後2台のカメラで撮影する。撮影時は特殊な照明を当てることで、不良を漏れなく見つけ出せるようにしている。「味についての検査はできないので従来通り官能試験を行っている」(小泉氏)。
不良の種類もさまざまで、包装時の折れ目や型つぶれ、開封用の赤いタブの長さなどさまざまな項目をまとめて検査する。さまざまな不良の学習により、不良に対して、対象の箇所をヒートマップで表示することなども可能だ。不良と認識された製品については、エアーによる排出装置で、すぐに排出する。これらを1分間に540個という個数が流れてくる中で、ラインのスピードを落とさずに実現できた点がポイントである。これにより従来は充てん包装工程で必要だった人員が24人いたのが、4人にまで減らすことができたという。「従来の目視検査では熟練検査者が100%不良品を排除していた。同等程度の精度を目指す」(小泉氏)。
AIの学習環境は、社内に新たなサーバを構築し、検査システムと光回線で結ぶことで実現。高速で検査画像を収集し学習に活用しているという。「大量の画像データを高速に24時間収集し続けることを考えると、クラウドではあり得なかった。高速で良否判定を行い、制御側に指示を送るエッジコンピュータについてもハードウェア性能の制約にぶつかっている状況だ。高速化するにはGPUのさらなる高性能化が必要になる」と小泉氏は語っている。
また、苦労した点について小泉氏は「今回はシステム構築やITインフラ環境などは清水建設が、データ周辺については六甲バターが担うという役割分担で取り組みを進めたが、とにかく苦労したのは『データを正しく集める』ということだ。例えば、最初に実証を開始した時には思ったような成果が得られずに撮影するカメラを変更した。そうなると前提となる条件が変わるためにまた最初からデータを集めなければならない。その後、照明を変更したら、また最初からデータを集め直しとなる。何度も何度も繰り返して、学習材料となる画像を数万点ずつ集めるということに耐えられるかというのが最も大きなハードルだったと感じている」と語っている。
今回、AI最終製品検査システムを生産ラインに本番導入したが2020年3月までは、人手での目視検査と並行で使用し、精度などを最終確認するという。これで問題ないと判断できれば、ベビーチーズにおける適用ラインをさらに広げ、全ライン導入に広げていくという。さらに、他の品目についても適用できる領域を見定めていくという。「現在のラインについてもこれで終わりではなく得られたデータで改善を進めていく。さらに精度を高め品質向上につなげていく。また、今回でインフラとなる環境は整ったので、他の領域でどういうことができるかどうかをさまざまな試験を通じて見定めていきたい」と小泉氏は今後の取り組みについて述べている。
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