村垣氏は、スマート治療室が従来の手術室と異なる点について、手技、手術を行う単なるスペースから、診断と治療を同時に行う部屋全体が1つの医療機器になったことを挙げた。「時間と空間の情報がタグ付けされたデジタルデータによって可視化できる。将来的にはこのデータを基にロボットが治療することもあり得るし、AIが術者の意思決定を支援することも可能になる」(同氏)。
スマート治療室については、既に基本手術機器をパッケージ化したベーシックモデルを日立製作所が販売しており、これらの手術機器や医療機器をつなげてネットワーク化を果たした「スタンダードモデル」も2020年の商用化に向けた開発が進められている。最上位となるハイパーモデルでは、臨床研究を進める中でロボット化やAI支援との組み合わせを図っていく。
さらに重要な目的となるのが、「実質臓器」「血管」「管腔臓器」の3つに分かれる外科領域を越えて連携する施術の実現だ。東京女子医大病院のスマート治療室は、日立製作所の治療中MRIを用いる「Hyper SCOT M」と、キヤノンメディカルシステムの血管撮影装置を用いる「Hyper SCOT A」という2つの部屋があり、患者に必要な検査手法をその場で選び、最適な施術を行える体制を構築しようとしている。
「スマート治療室の開発を進める中で重要だった」と村垣氏が強調するのが、医療機器メーカーではないデンソーの存在だ。同社が、スマート治療室でさまざまな機器をつなげるための基盤技術として開発した「OPeLiNK」は、工場の生産ラインに用いられているFA用ミドルウェアの国際標準「ORiN」が中核技術となっている※)。
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デンソー メディカル事業室 室長の奥田英樹氏は「OPeLiNKは、緩やかにつながることが特徴のORiNによって、それぞれの医療機器を改造することなく互いにつなげられる。院内の手術情報活用プラットフォームになるだけでなく、世界に手術情報を配信することにも利用できる。日本の高い医療技術を配信して、それによって世界の医療レベルを上げられるのではないか」と語る。
現在、OPeLiNKは国内メーカーを中心に31社の46機器をつなげられる状態にあるが、今後の国際標準化に向けた取り組みも進んでいる。「競合規格のうち、ドイツのOR.NETとは協力関係にあり、既に50%程度が相互接続が可能になっている」(村垣氏)という。また奥田氏は「OPeLiNKは緩やかにつながることが特徴であり、どんな機器でも、どんなプラットフォームでもつなげられる。競合規格とされるものとも、対立することはないのではないか」と述べている。
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