産業機器に用いられているフィールドバスのうち、無線対応の規格では「WirelessHART」と「ISA100.11a」が市場を分け合っている。市場に浸透した理由を含めて、これら2つの規格について解説する。
今回はちょっと毛色を変えて産業機器(インダストリアル)系の話を。いわゆるフィールドバスと呼ばれる、産業機器向けのバス規格については、以前に連載第19回でも触れた通り。最近だとEtherCATなどもこのカテゴリーに入るようになってきているようだが、これらは基本的に有線のバスである。
これに対して無線のフィールドバスというものも当然存在する。特に、工場内などで利用されるものとして有名なのが「WirelessHART」と「ISA100.11a」で、これがちょうど市場を分け合っている感じである。最近は、このマーケットに向けて旧リニアテクノロジー(Linear Technology、現アナログ・デバイセズ)が「SmartMesh IP」という独自規格(といってもベースはIEEE 802.15.4+6LoWPan)の方式を強力に推進しているが※)、こちらはまだマジョリティーという域には達しておらず、広く使われているという意味では最初の2つの規格になるだろう。そこで今回はこれら2つについてまとめてご紹介したい。
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まずWirelesHARTは、名前から分かる通り「HART(Highway Addressable Remote Transducer)」がベースになっている。HARTは本来はプロトコルであって、HART Communication Protocolという呼び方をされている。Rosemount Engineering(1976年にEmerson Electric Companyに買収されてRosemount Inc.に改称)が開発したもので、Bell 202という1200bpsのアナログモデムを利用して遠隔地にあるセンサー類と通信するためのものだった。
そんなわけで物理層はBell 202互換となり、その上に通信用プロトコルを被せた形のものである。ただしその後、1986年にはオープンプロトコルとなり、1993年にHART Communication Foundationが設立され、ここがHARTを扱うことになった。その後、2014年にこことFieldbus Foundationがまとまって、Fieldcomm Groupを形成し、現在はFieldCommがHARTを管理している。
HARTのベースになるBell 202というのは、要するに20mAのアナログカレントループを使った通信ということで、2線式の配線さえあればかなり長距離(理論上は3km)まで通信可能(あくまでも物理層がBell 202互換というだけであって、電話局の存在の必要はない)といった特徴を持つ(図1)。
面白いのはこのHART、アナログとデジタルの混在規格になっていることだ。変調方式としてFSK(周波数偏移変調)をサポートしており、これを利用してデジタルデータの送受信が可能だが、これとは別に4m〜20mAの範囲でアナログデータを送ることも可能である。例えば、0〜100℃のリニアな温度センサーで利用する場合、8mA=25℃、12mA=50℃、16mA=75℃を意味することになる。こういうバスは他に余り類を見ない。一方のデジタルの方は、原則マスタースレーブ方式であるが、マスターからの要求が無くても自発的にスレーブからメッセージを送るバーストメッセージをサポートするといった、ちょっと珍しい機能も付加されている。
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