enmono 月面探査車の開発自体は、ほとんど終わっているんですか。
古友氏 実際に月で動かせるという証明は、Google LUNAR XPRIZE中間賞を受賞したことで成されています。でも、まだ解決すべき課題があって、それは軽量化です。現在の重量はトータルで10kgくらいなんですけど、10kgだと打ち上げ費用が15億円くらい掛かってしまう。だからもっと軽くしなければなりません。走行に一番大事なリンクとホイールが結構重いんです。1輪当たり500gくらいあります。
enmono でもこのホイールって樹脂製ですよね。これ以上軽量化といってもなかなか難しいのではないかなと思ったのですが。
古友氏 そうですね。今はこれを1輪当たり150gくらいにしようと思っています。最終的には今8kgのローバーを4kgで開発しようとしています。
enmono 月へ行けば重力が約6分の1になる。だからもう少し軽量化して強度を落としても大丈夫ということなんでしょうか。でも月着陸船に載っている間に壊れてしまってはまずいですよね。
古友氏 そうなんです。ロケットの打ち上げ振動に耐えられる強度かどうかが一番支配的です。地球の重力圏から出られる強度が必要で、それをクリアできる範囲で可能な限り削って軽量化する――そういう設計を目指したいと挑戦しているところです。
enmono リンク部分はアルミですか?
古友氏 そうです。アルミをマグネシウムか、CFRP(炭素繊維強化樹脂)に変えればより軽量化できますね。カーボンは高いんですけど、今RDSさんという埼玉県の企業に技術パートナーになっていただいて、開発を進めています。
enmono そうするとそこはかなり軽くなりますね。でもカメラは民生品を買ってきているのであれば、軽くするのは難しいと思うのですが。
古友氏 えーと、カメラも軽量化します……。
enmono カメラメーカーの協力も得られる様子なのでしょうか。
古友氏 相談はしてるんですけど、まだちょっと前向きなご回答はいただけてなくて。広くご協力を募集しております……。
enmono こういう宇宙開発にご協力いただけるカメラメーカーさんはぜひ! 基板などの部分についてはどうでしょう。
古友氏 基板は熱的な問題と、あと信頼性の問題があるので。
enmono 現在は何を載せてるんですか。
古友氏 今載ってるのは「BeagleBone」です。放射線試験もパスしています。僕たちの探査機は月面での運用時間がそんなに長くなくて、2週間だけ運用できればいいという構想でモノづくりを進めています。普通の衛星だと使用期間は数年単位になると思うんですけど、月だと地球時間でいう昼の時間が約2週間くらいあるんですね。昼と夜がそれぞれ2週間ずつ交互に続きます。1カ月くらいで昼と夜の時間帯が入れ替わるんですけど、この探査機は昼間しか使わないので。
enmono じゃあ今のところ軽量化が一番の課題なんですね。パッケージを小さくするというのは考えているんですか。
古友氏 宇宙での熱交換には空気がないので自然対流が起こらないんです。なので、表面積が減ってしまうと、赤外で熱交換するしかなくなってしまうという問題があります。あと今はコストの問題で貼っていないんですけど、宇宙空間で電力を得るためには太陽電池を貼ることは必須です。すると最低でも今くらいの表面積が必要なので、パッケージサイズはこのままで重量を軽くしていかなければいけません。
enmono 3Dプリンタなども使われてるんでしょうか。
古友: そうですね。ULTEM(ポリエーテルイミド樹脂の製品)という材質を使っています。そんなに軽くはなく、比重でいうと1.2くらいです。3Dプリンタでよく使われているのはABSなんですけど、ABSで3Dプリンティングすると耐熱温度が70〜80度くらいまでになってしまう。僕たちが降りる月面の場所はマイナス50度くらいから最高で100度弱くらいになるんです。ULTEMなら230〜250度くらいまで耐えられます。これも埼玉県のRDSさんで作っていただきました。
enmono そのRDSさんはこうした製品の試作などを手掛けているのでしょうか。
古友氏 製品も作っています。ドライフルカーボンの松葉杖や軽い高性能な義足などさまざまです。加工機も持っていて、金属加工もお願いできたりします。
enmono それはボランティアではなく有料でやってらっしゃるんですよね。
古友氏 パートナーシップということで。
enmono スポンサーみたいな感じですか。それはすごい。じゃあ、どんどん目立って宣伝しないと。埼玉県のRDSさんですね。
※HAKUTOが開発する月面探査車の最新状況は最終ページに!
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.