模造品を1秒で鑑定!「物体指紋認証」5分でわかる最新キーワード解説

指紋でヒトを特定できるよう、モノの表面にある微細な模様のバラツキを「物体指紋」として個体を特定するのが「物体指紋認証」です。ICタグやバーコードなしで効率的な管理を可能にします。

» 2015年08月19日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 今回のテーマは「物体指紋認証」。指の指紋で人物を特定するように、工業製品の製造工程で生まれる微細な表面紋様のばらつきを「物体指紋」として、ICタグやバーコードなしで効率的な個品管理を可能にする技術が誕生しました。

「物体指紋認証」とは

 工業製品の一部の画像を管理データベースと照合して、短時間で一致/不一致を識別・認証する技術のこと。2014年11月、NECが同社の指紋認証技術をはじめとするさまざまな画像認識技術を援用して、スマートフォン内蔵カメラを用いて瞬時に個品認証を行う技術を「物体指紋認証技術」として発表した。

  • 「物体指紋」って何?

 工業製品に「指紋がある」ということにまず驚かされるが、実は「指紋のように世界にただ1つしかない表面紋様」のことを指している。大量生産される製品であっても、その表面には製造工程でいくら均一に加工しようとしてもし切れずに残る、個品ごとの微細な差異がある。

 典型的なのは、サンドブラスト加工による梨地表面だ。曇りガラスのように、本来は表面がツルツルピカピカする素材なのに、わざと微細な凹凸をつけて、光沢をなくしたり、滑りにくくしたり、見ばえをよくしたりしている製品はよく見かけるはず。これには製品の表面に研磨材を勢いよく吹き付けて微細な凹凸をつける方法がとられている。

 このような加工をしなくとも、鋳物や粒子混合塗料など、多くの物体表面に、もともと細かな凹凸が存在する。その凹凸のパターンは一見均一に見えるものの、ルーペでよく見ると個品ごとに全く違う。どんなに精密にブラスト機を制御しても、個品ごとに完全に一致することはない。

 そんな違いを、指紋照合の場合と同じように、登録された画像と撮影された画像とを照合して見分けようというのが、「物体指紋認証」の基本の考え方だ。

  • 物体指紋認証で何ができるの?

 何をどのように認証するかは、具体例を見た方が分かりやすいだろう。以下にNECのデモの模様を紹介しよう。図1には、ボルトが8本、シャーシに取り付けられた状態(左)になっている。それぞれのボルトの頭には同一の金型に施された梨地加工と文字が転写されて浮き彫りにされている(右)。どのボルトも肉眼では全く同じに見えるが、実は長さの違うボルトが混ざっている。これを物体指紋認証により見分けてみる。

photo 図1 8本の施行済みボルトに2種類の長さのボルトが混在(資料提供:NEC)

 スマートフォンにクローズアップレンズが組み込まれた専用のアタッチメントを取り付け(図2 左)、ボルトの頭をアタッチメントにはめ込むようにして、専用アプリで写真を撮ると、その画像はクラウド上にあるボルト個品管理データベースに送信されて照合が行われ、わずか1秒で結果がスマートフォン上に表示される(図2 右)。この場合は、長い方のボルトであり、データベースに登録済みの正当な部品である旨が表示されている。

photo 図2 アタッチメントをつけたスマートフォンで撮影して「物体指紋」を照合(資料提供:NEC)

 もう1つ、例えば正規ルートで入手した製品ではない機器、あるいは模倣製品を見分ける例を見てみよう。図3 左上に並んでいる機械は産業用のミシンで、この中に1つだけ非正規品が混ざっている。先程と同様に照合対象となる部分の部品に合わせたアタッチメントをつけたスマートフォンで撮影を行う(図3 右上)。データを送信すると、すぐさま結果が返ってくる。正規品であればデータベースに登録されているので、照合結果は「OK」(図3 左下)であり、登録外品であれば「×」(図3 右下)が表示される。

photo 図3 非正規製品を部品から見分ける例(資料提供:NEC)

 正規品であれば、その製造番号や出荷検査日、受け入れ検査日、稼働開始日、次回検査予定日などのような個品に付帯する各種の情報も、データベースから抽出して表示することも可能だ。

  • 製品のトレーサビリティ

 このデモではボルトの種類の判定やミシンの非正規品の発見を行っているが、全てのボルトやミシンの部品画像を登録した個品管理データベース(クラウド側にある)が前提になっており、個品ごとに画像の照合が行われるとともに、個品にひもづけられた各種の情報が照合結果と同時に入手できる仕組みだ。

 この方法によれば、製品の種別判定や真贋判定ができるばかりでなく、例えばある製品に使われているボルトがどこの国のどの工場で作られたのか、さらには工場内のどの生産ラインでできたのか、検品されたのは何月何日何時何分かなど、どこまでも詳細に来歴をトレスできるようになる。

 例えば、電子部品、服飾用部品、食品・薬品の容器などの表面紋様を登録し、製造日、購入店舗や日時などを対応付ければ、部品や製品の流通経路のトレサビリティを確保できる。

  • 細かい部品の個品管理、真贋判定、ブランド保護

 製品のエンブレムやロゴマークなどの表面紋様を登録すれば、簡単に個品が識別できるため、従来のようにシリアルナンバーを刻印したり、バーコードやICタグをつける必要がなくなる。上掲のようにボルトの頭のように、タグ付けやコード印刷がほとんど不可能な部品でも、簡単に個品管理ができるようになる。もちろんブランド品や組み立て後の製品の真贋も瞬時に判定できるので、ブランド保護にも利用できよう。

  • 製品・設備の保守点検が効率化

 加えて製品や設備の保守点検の際の部品の確認が簡単にできることになる。類似品が多い部品でも、表面紋様を登録するだけで個品管理が可能になるので、間違った部品使用の予防につながり、施工後のボルトやねじの頭などの紋様から、どのような種別の製品なのか、適正な検査を通過してきた製品なのかが判断できる。万一、製造工程の一部で特定の時間帯だけに問題が発生して不良部品が出回ってしまった場合でも、その日の生産ロット全部というような単位ではなく、欠陥が生じた時間帯に製造された部品だけを交換すればよいことになり、品質管理・保証と保守コスト削減に役だつだろう。

コラム:不適切なボルトの使用で航空機の窓が外れた事件も!

 1990年、イギリスの航空機のコックピットの窓が飛行中に外れ、機長の体が外に飛び出してしまう事故が起きた。幸い副操縦士や客室乗務員の奮闘で無事に緊急着陸でき、機長も九死に一生を得たが、1つ間違えれば大惨事になったことは想像に難くない。その事故を起こした原因は窓を固定していたボルトが、規格サイズのものではなかったことだった。小さなボルトのような部品であっても、種別の誤認や品質確認ミスは、時に人命にもかかわるリスクがある。部品や製品の生産がグローバル化する中にあって、部品の個品管理は今後ますます重要になってくる。


「物体指紋認証」の技術の特徴と今後

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