――何を満たせば「キラーハードウェア」になりえるのでしょうか
高橋氏: 「ジャンルの可能性を感じてもらえる製品」でしょうか。初代のiPhoneはダメな部分も多かったですが、“これを直せば”という改良すべき点も多くありました。その存在自体の価値を感じてもらえたのですね。コミュニーションロボットであれは、愛着や感情移入を感じさせるレベルに到達していれば、その先の期待が生まれるのだと思います。
しかし人の感性はとても繊細です。その本質を理解して製品に落とし込み、小さなディテールを積み重ねて完全な世界観を構築していくことは、とても根気のいる作業です。その時、マンガやアニメーション、ゲーム、キャラクタなどで培った感性を応用できるでしょうし、そうした「感性を形にする」ことは日本人の得意な領域だと思います。
――以前から次世代のロボット実用化について、「1家に1台」の家庭用コミュニケーションロボットが本命と仰っています。
高橋氏: いままでの延長線上に、新たな産業として可能性は無いでしょう。怪しい建前で補助金をもらいながら研究開発ということを続けていては、永遠に産業として自立できません。そもそも、これだけ世界中の資金がロボットに流れ込んでいる今、まだ補助金に頼らなければならないのなら、そもそも研究や研究者の質を疑うべきでしょう。今後、GoogleやAmazonといった世界の巨大企業を相手に戦っていける分野や体制を見極めて再構築すべきだと思います。
コミュニケーションロボットが本命という考えは変わっていませんが、スマートフォンの延長線上の存在になるはずで、「1家に1台」ではなく「1人に1台」が目指すべき姿だと思っています。今すぐにスマホに取って代わるとは思いませんが、フィーチャーフォンとスマホの2台持ちから、スマホのみに切り替えた人が多くいるように、併用の後にロボット端末へ移行することを期待しています。
スマートフォンが持つ基本機能や提供する体験はそのまま有し、それに加えてスマホにはない楽しさや機能、世界観、親近感のようなものを小型のヒト型コミュニケーションロボットで提供できるはずです。
――これまでに多くのロボットを手掛けていますが、ロボットの目的に対して「歩く」からスタートし、現在は「コミュニケーション」を掲げるに至っています。なぜ、コミュニケーションを掲げるに至ったのでしょう。
高橋氏: 「歩けないなら、歩きたい」「歩けたら、走りたい」「走れたら、しゃべりたい」、その積み重ねですね。
私たち開発者は「なぜヒト型なのか」という問いにずっと答えられなかった。ですが、それでもヒト型に取り組んでいるのは、ヒト型への愛着があるからです。コミュニケーションロボットでは、その愛着が大きな意味を持つようになった、というわけです。
そしてスマートフォンの普及が生活を変えていくのを目の当たりにしました。スマートフォンの次が小型のヒト型コミュニケーションロボットというのは、必然だとすら思っています。
日ごろ注目しているのは、「ポストスマホ」を模索しているウェアラブル端末やアメリカのロボットスタートアップの動向です。しかし、まだ今のところ革命的な製品は生まれていないように思います。
ある日突然、ただ1人の人間の構想によるただ1つの製品が、壁を突き抜けて成功を収めるのだと思います。そんな「キラーハードウェア」はiPhoneやウォークマン、ファミコンのように、その周りに新たな産業群を作り上げるのです。既に開発を進めている「ヒト型の小型コミュニケーションロボット」で、時代を創るキラーハードウェアを目指したいと思います。
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