依頼が来た時、そもそも従来製品にあるねじ穴が、清潔さを維持する上では大きな問題になりそうだと折笠氏は感じた。そこで打ち合わせの場でスケッチを描き、ねじがなくなれば、いかに汚れがたまらず洗浄もしやすく、見た目も洗練されるか説明した(図2)。
ねじ穴が汚れの元になるという問題はすんなりとエンジニアと共有できたが、「最も幸運だったのは、エンジニアが問題の解決だけでなく、最終的に優れたデザインにつながることの方に大きな関心を示してくれたこと」だと折笠氏は述べる。このねじ穴をなくすという目的の共有を皮切りに、表面に凹凸がなく滑らかな形状を持つロボットが、早い段階でデザイナーとエンジニアの共通コンセプトとなっていった。
ねじのないボディについては、アイデアを持ち寄って話し合った結果、内側にねじを取り付けて、隠しふたを被せ、その上からコーキング後、研磨して、ふたを閉じ切りにする方法を採った。この方法だと一度閉じれば開けられなくなってしまう。そこで長年のロボットの稼働実績から故障モードやメンテナンス頻度などを割り出し、必要なふたの数を絞り込む作業に時間を掛けたという。
一方、汚れを蓄積させず、洗浄しやすくするためには、あらゆる溝や段差がなく滑らかであることが必要だと考えた。最初にイメージしたのは、通常のロボットを液体金属にフォンデュ(※)のように浸したものだったそうだ(図3)。
イメージを形にするためにこだわったことの1つは曲率連続だという(図4)。
また特にこだわったのが、関節の断面を真円にするということだ。従来の関節の断面は四角形だったため、ロボットが回転する時にすき間ができ汚れがたまる場所になってしまう。もちろん外形を変化させるためには、内部の構造も検討し直さなければならない。これは設計サイドと相談を繰り返しながら形状を詰めていった。
折笠氏はこの形状を設計するために、通常使うデザイナー向けCADに加えて設計者向けCADの操作も一から覚えたという。編集可能な、柔軟性のあるデータを作るためだ。非常に有機的な形状をデザイナー向けCADだけでなく設計CADでも扱えるよう、両方に互換性のある機能を研究し、形状の作り込みに時間を掛けたという。
形状だけでなく、動きの気持ちよさにもこだわった。ロボットのように可動する製品は、どんなポーズでも美しく見えて、その動きが魅力的であってほしいという考えからだ。関節の断面を真円にしたのも「動きの気持ちよさ」にもつながると考えたからだそうだ。関節が駆動するモックも作り、何度も検討を重ねていった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.