遠藤氏は、酸素犬ロボットの具体的な利用シーンを「近所のコンビニへ買い物に行く」と想定している。あらかじめ、過去のアンケートや資料から、患者さんの生活パターンを調査した結果、通院以外の外出で一番多いのが近所の買い物だったことによるという。
歩くだけで息切れがしてしまうCOPD患者さんにとって、散歩や買い物など日常生活で、気軽に外出できるようになることが、体力の低下を防いだり気分転換を図るために重要なのだ。
人に追従するロボットを研究開発するとしたら、追従の手段としては画像認識やレーザー測距センサー、ジャイロセンサーなどさまざまな方法が考えられる。しかし、このロボットに高度なセンサーは搭載されていない。
使われているのは、リードの中にあるポテンションメーターだけだ。ヒモの端を患者さんが持てば、ヒモの長さと引き出される向きを計測して、ロボットは患者さんの後ろをつかず離れず、追従して移動する。
「患者さんは、酸素ボンベと常にチューブでつながっているから、自律追従にする必要はない」(遠藤氏)と、シンプルかつ信頼性も高い制御方法を採用した。
高度なセンサーを搭載しないもうひとつの理由はコストだ。COPDの患者さんは、高齢者が多い。高価なロボットを購入する余裕のない方もいるだろう。コストは可能な限り低く抑え、酸素運搬ロボットを必要な人が手に入れられる製品を作りたい。そう考えながら開発を進めている。
「研究者は、つい最先端技術を使いたくなってしまう。しかしこのロボットに関しては使用する部品の選定時から、製品化したときのコストを意識しています」と遠藤氏は語る。
移動制御についても同様だ。当たり前に歩いていると気づかないが、歩道は決して水平ではない。ガレージの前や交差点では、歩道がスロープになっている。黄色の視覚障害者誘導用ブロックは、丸が並んだブロックと長方形が並んだブロックがある。人間にとっては気にならないスロープやパターンの違う小さな凹凸は、ロボットが安定走行するに大きな障害物だ。
この不整地踏破には、惑星探査車両(ローバー)のサスペンションにも使われているシンプルかつ信頼性の高い技術を応用し、簡易化と低コスト化を可能にした。
「スムーズに追従するため、ロボットにリードを取り付ける高さをどこにするか。利用者の腰にヒモを結べば両手が空くのではないか。信号待ちの間にロボットがスロープで滑らないように停止させるにはどうすればいいか。あらゆる微調整をこの7年間で繰り返してきた」(遠藤氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.