コミュニティーづくりから実戦の場へ――世田谷ものづくり学校が描く新ビジョンモノづくり×ベンチャー インタビュー(2)(1/4 ページ)

IID 世田谷ものづくり学校(IID)は2014年秋から、個人のクリエイターや中小企業を巻き込んでモノづくりを産業として発展させる体制を整えている。廃校を再活用したモノづくり拠点として2004年から行ってきた取り組みを基に、今後はどのようなビジョンで活動を進めようとしているのだろうか。

» 2014年10月21日 10時00分 公開
[陰山遼将,MONOist]

 廃校を再生活用して地域に根差したモノづくりを――東京都世田谷区にあるIID 世田谷ものづくり学校(IID)は、2004年3月に廃校となった旧池尻中学校を再生活用した施設だ。さまざまな分野のクリエイターや企業に、校内の教室をオフィスとして提供する他、モノづくりにまつわるワークショップやイベントを開催している。

 これまで、作り手と受け手の境界を取り払った誰にでも開かれたオープンな場所として、モノづくりのコミュニティーを形成してきたIID。10周年を終え、11周年目に入った2014年秋から、これまで形成してきたモノづくりのコミュニティーを活用し、個人のクリエイタ―や中小企業を巻きこんで、IIDの中で生まれるモノづくりを産業として発展させる体制を整えている。

 こうしたIIDの新しい取り組みや、そのベースとなるこれまでの活動について、IID 世田谷ものづくり学校 企画室 館内企画担当の木下浩佑氏に話を伺った。

地域に根差したモノづくりを

IID 世田谷ものづくり学校 企画室 館内企画担当の木下浩佑氏

MONOist IID 世田谷ものづくり学校の設立経緯について教えて下さい。

IID 世田谷ものづくり学校(クリックで拡大)

木下氏 IID 世田谷ものづくり学校は、世田谷区が掲げている産業振興の一環として、地域特性を生かしたモノづくりを根付かせ、広めていくことを目的に2004年10月に設立されました。IIDというのは、「IKEJIRI INSTITUTE of Design」の略称です。ここをデザインの研究機関のような場所にすることで、それを生かした地域特化型のモノづくりを世田谷から広めていこうという意味が込められています。ここからモノづくりを産業として育てていこうというのがIIDの原点です。

 産業として育てるというのは、IIDを工場のような存在にするのではなく、モノづくりを中心にそこにさまざまな方々が集まるような場所としてモノづくりを広めていきたいという意味です。そのために、IIDは「仕事」のための場所だけではなく、誰にでも開かれた学びや遊びの場所でもあります。

MONOist これまでのIIDの取り組みについて教えてください。

木下氏 IIDは産業振興の拠点であると同時に、地域貢献や観光拠点でもあります。ただ、企業にオフィスのレンタルを行うということではなく、ワークショップやイベントを通じて地域の方とコミュニケーションがとれるようにしています。現在、年に3回から4回の大きなイベントを開催したり、毎週末にクリエイターやデザイナーの仕事を通じてモノづくりやデザインの本質を知ってもらえるようなイベントを、年間400回ほど企画しています。

IID 世田谷ものづくり学校の校内(左)と併設されているギャラリースペース(右)(クリックで拡大)

 こういった取り組みを10年間続けてきた結果、IIDを訪れたクリエイターの方たちの間で新しい企画が生まれたり、ワークショップやイベントを通じて周辺地域の方々とのコミュニケーションを取れるような土壌を築くことができました。また、IIDの中にはオフィスだけでなく、ギャラリーやイベントスペースも併設しています。そういった校内施設を活用してきたことで、IIDに業種や肩書などを問わず、さまざまな方が訪れてくれるような環境を整えることができました。

個人や中小企業のアイデアを実現するためのハブに

MONOist IIDは2014年の秋から、「New Season」としてより本格的に個人や中小企業と連携する方針を打ち出しています。その背景にはどういった理由があったのでしょうか?

木下氏 先ほどお話したように、IIDの当初の設立目的は、IIDからモノづくりを産業として広めていこうというものでした。これまでの活動で、IIDは「廃校を活用した面白い施設」という印象が強かったと思います。本当は両輪でなければいけなかったのですが、これまでの目立つ活動は、ワークショップやイベントなど、B2C向けのものが多かった。でも、2014年の秋からは、10年かけて作ったこのコミュニティーを活用してしっかりと産業として育てていこうという方針になりました。これまでの活動の蓄積によって、やっとそういったところまで手が届くようになったという感覚ですね。

 IIDに集まってくるような、個人や中小企業のクリエイターの方が考えたものを、高いクオリティーで実現させるためには、日本の製造業の技術が必要なのではないかと考えています。中小企業や個人のクリエイターが作るモノを、大量生産品と差別化するには、優れたデザインや機能を有するとともに、売り方などまでを含めてブランディングするというのが良い方法ではないかなと。そこで、IIDを中小企業や個人のクリエイターと、技術を持っている方々とをつなげるハブのような存在にしようというのが最近の大きな方針なのです。

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