続いて、今後日本の大企業がベンチャー企業といかに関係性を構築していくべきかについて意見交換が行われた。その一例としてKDDIが2011年6月に立ち上げたベンチャー企業の支援プログラム「KDDI ∞ Labo(無限ラボ)」が紹介された。同社は2014年からこの無限ラボを通じて、KDDIのパートナー企業とともに「KDDI Open Innovation Fund」を立ち上げ、ベンチャー企業への投資や支援を行っている。
KDDIのこうした取り組みを主導する高橋氏は、大企業とベンチャー企業の関係について「大企業側がベンチャー企業に対して急いでシナジーを求めすぎてはいけないと思っている。ここに投資をすればこれくらい儲かるというのを最初から説明するのは難しい。無限ラボに参加していただいている大企業には、『自分たちの側からシナジーを最優先で求めるのなら出ていって欲しい』と伝えている。大企業が、ベンチャー企業をサポートするという考えを持って、少し長い目で見て投資を続ければシナジーも得やすくなるだろう」と語った。
また、菅原氏は「経済産業省にいるとさまざまな大企業の経営者と話す機会がある。そういった方々とベンチャー企業について話すと『私たちには関係ない』という人と、『うまくベンチャー企業と手を組んでいきたい』という人に分かれる。そういった経営側の立場と現場の意見や状況がかみ合っていないことも多い。ベンチャー創造協議会では、そういった状況も改善していきたい」と説明した。
近年、大企業などが自社の事業シーズを切り出して、ベンチャー企業を創出するカーブアウトが注目されている。パネルディスカッションでは、こうした“大企業発”のベンチャー企業の創出についても意見が交わされた。
伊佐山氏は「大企業の中に眠っている面白いアイデアが、経営的な理由によって顕在化しない場合が多い。WiLでは、企業の中に入って大企業の中にあるアイデアを預かって育てる事業を進めている。全てを自社の中だけで行うのは難しいので、信頼できるアウトソーシングのためのパートナーを見つけることが重要なのではないか」と語った。
ベンチャー創造協議会は、そういった取り組みの一環として、大企業の人材を米国のシリコンバレーに派遣するという施策を進める予定だ。そのサポートを行う伊佐山氏は「大企業の人が外に出て、どうやって素早く新規事業を立ち上げるのか、大企業のような看板を持っていないベンチャー企業がいかに苦しい状況で事業を進めているかといった、現場の姿を実際に見てもらうことがオープンイノベーションへの第一歩につながるのではないか」と説明した。
経済産業省の菅原氏は「今後、政府としてオープンイノベーションをどう推進するか?」という質問に対し、「大企業が自らベンチャー企業を生みだすというのは、“望ましい”ではなく、取り組まなければならないことになりつつある。このままでは、社内における潜在的失業者といった問題などによって、社内ベンチャーを創出する前に本業すら回らなくなる危険もある。スピンオフやカーブアウトといった手法で、人材を外に出すような動きや、イノベーション創出のサポートなどの必要があると考えている」としている。
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