前述した通り、論理的に正確であることが重要で通信のリアルタイム性が要件とならない上位系システムの通信は、イーサネットが利用されている。ただ、物理的に通信が可能といってもそのまま「つながる」といえないのが悩ましいところだ。
上位系のアプリケーションはそれにつながるさまざまなデバイスに合わせて「一品物」のソフトウェアをプログラムすることが多い。そのため「開発期間が長い」「メンテナンス費用が多い」「システム構成が複雑」などの課題がある。例えば、工場内のシステムと同じ方式のイーサネット通信を行っていたとしても、その上で実行するコマンドやインタフェース仕様が統一されていないため、データ通信は行えても、それぞれの機器が正しく使えるようにはならない。
同一機器メーカーのパッケージソフトを使うとそれらの課題を解消できるが、使える機器の選択肢が狭まり、差別化もしにくくなるというトレードオフが発生する。このジレンマはFA業界に限らずICT業界でも同じことがいえるだろう。
この課題を解決する目的で制定された日本の標準規格がORiN(オライン)である。
日本ロボット工業会での標準化活動の一環としてスタートしたORiNは、1999年度から3年間にわたりNEDOより支援を受けて開発が進められた。2001年にVer.1が完成し、2002年にORiN協議会を発足して普及・開発活動の推進を開始した。2005年にVer.2が完成し、2006年から欧州で先行して普及を進め、日本市場では2008年より活動を開始している。ORiNはアプリケーション層とデバイス層に対して標準的なインタフェースを提供することでつながる機器やネットワーク、通信プロトコルへの依存をなくすもの。2011年にISO20242を一部取得している国際標準規格だ。
ORiNでは個々のデバイスの違いがプロバイダーによって吸収される。そのため、抽象化されたデバイスのエンジンに対してアプリケーションを組めばよいためシステム開発方法の統一が可能となる。アプリケーション側にとっては機器依存を最小限にしてアプリ開発できるのがメリットで、機器側にとってはアプリケーション依存を最小限にして機能を公開できるのがメリットだ。さらに他の標準規格を取り込むことが容易で、既存のアプリケーションの再利用が行える。【中編】で紹介した「Industrie 4.0では必須の通信規格」と位置付けられている「OPC-UA(IEC 62541)」にも上下方向で対応する。FAアプリケーションの再利用性を高めるためISO16100準拠のソフトウェアケイパビリティプロファイル(XML)の生成・読み込み、書き込みに対応していることも特徴だ。
こうした日本発の標準規格が国境を越えて広がっていくと日本の製造業の活性化にもつながるはずだが、そこで直面するのが市場保護という構造的な課題だ。
つながる機器が増えて競争原理が働く選択肢が広がるのはユーザーにとってはうれしいことだが、その機器を供給するメーカー(サプライヤ)にとってはコモディティ競争となる。そのため安易に標準規格に対応するわけには行かない。また、仮に戦略的・長期的な観点で対応しても既存顧客には新規格への移行のためのスイッチングコストが発生する。結果としてユーザー、サプライヤの双方に負担がか掛かる構図になっている。日本には制御機器メーカーやロボットメーカー、装置メーカーなどの産業機器のサプライヤが世界でも突出して数多く存在するため、TPPで経験しているジレンマにここでも直面することになる(関連記事:「まねできる技術は守っても無駄、教えてしまえ」日本ロボット学会小平会長)。
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