1990年のバブル崩壊により、安定成長の時代は終わりを告げました。製造現場にも潤沢な資金が回らなくなり、生産設備の投資対効果への要求はさらに厳しくなりました。1980年代の多品種少量生産に変化した製造現場では、大量生産ラインの他に多品種少量生産用にラインを新設するということが、多くの企業で行われました。しかし、バブル崩壊後は「大量生産と多品種少量生産を同じ生産設備でできないか」という期待が強くなります。
このようにロットの大小を問わず多くの品種の製品を同じ生産システムで製造する生産が「多品種変量生産」です。この時期から、大量生産を象徴する長い一貫生産ラインは姿を消し始め、いくつかのユニットに分断された「混流生産ライン」が増え始めました。混流といっても全く異なる製品が流れるわけではなく、さまざまなオプションの組み合わせに対応するというイメージのモノです。
混流生産で重要なのは生産工程の状況に応じた制御、生産状況監視、生産品質管理で、そのための情報化が必須となります。1990年代に進んだ情報化による生産性向上の技術的背景は、PCに代表される情報処理機器の普及です。製造現場では機器のシーケンス制御のためのコントローラから工場全体の生産管理のサーバまでさまざまな情報処理設備の導入が進みました。対話型プログラミングツールやシミュレータなど、生産財に関わる情報処理ソフトも急速に発達し始めました。
2000年代に入ってからの最大の変化は製造業の国際競争激化です。中国に代表されるアジアの新興工業国で製造業が急激に成長し始めました。厳しい競争にさらされた日本の製造業は、いよいよ生産性の頭打ちに至ります。海外生産指向もこのころから急速に強まります。どの国に持って行っても実現できる生産方式では、もはや国内製造業に競争力はありません。
ここに至って日本国内では最も難しい生産形態である変種変量生産を可能にするために、ロボットによる自動化、セル生産へのチャレンジが始まります。多品種変量はロットの大小を問わず多くの品種の製品を同じ生産システムで製造する生産でした。しかしロボットによるセル生産で目指す「変種変量生産」は、品種と量を自由に変えながらも効率的な生産を行うというものです。作る品種が変わるといってもテレビの生産システムで携帯電話端末を作るなど、非合理的な話ではなく、携帯電話端末に限定した生産ながら、年々変化する製品形態に対応できる生産システムを作るというイメージです。
もともとのセル生産は人手を想定した生産方式でした、単純作業をこなす作業者が並ぶライン生産ではなく、1人の受け持ち範囲を広くした多能熟練工による生産です。1人で部品から完全品まで組み立てるという1人屋台型のセル生産が究極の姿です。セル生産の強みは、技術力や意識の高い日本の多能熟練工の能力が生かされる手法だといえます。ただし人手によるセル生産の限界は、生産規模・効率・品質の全てが多能熟練工の能力に依存してしまうということにあります。
そこで安定したセル生産を実現するため「ロボット化できないか」というニーズが出てきます。従来のロボットによる生産は、所定の繰り返し作業を分担するロボットによるライン生産が一般的でした。これをセル生産に移行しようとすると、人手の場合と同様、多能熟練ロボットが必要になります。もともとは、製造専門装置とは異なる産業用ロボットの魅力として多能熟練作業をこなすことが期待されていました。そのことを思い起こせば、ようやく本来の期待に応えるべき事態に直面したということもできます(図4)。
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