「はやぶさ2」は重大トラブルを回避する安心設計 〜化学推進系の信頼性対策【前編】〜次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(8)(2/3 ページ)

» 2014年05月22日 10時00分 公開
[大塚実,MONOist]

「はやぶさ2」での仕様変更は?

 では、具体的な仕様について見ていこう。RCSの性能の指標となるのは推力と比推力だ。推力は、自動車でいうと馬力に相当する。同じ重量の衛星であれば、推力が大きいほど、大きな加速を得ることができる。一方、比推力は燃費のようなものだと覚えておいてほしい。推力が同じであれば、比推力が高いほど、一定量の推進剤を使って、長く噴射させられるわけだ。推力の単位はニュートン(N)、比推力の単位は秒(s)である。

 「はやぶさ2」のRCSには、推力20Nのスラスタが12基搭載される。これは初号機と全く同じで、配置にも変更はない。搭載場所は、上下の面に4基ずつ、前後の面に2基ずつとなる。


「はやぶさ2」のイラスト 「はやぶさ2」のイラスト(©池下章裕)。上下面では4つの角に、前後面では左右の辺の中央にスラスタが搭載されているのが見える

 「はやぶさ」クラスの重量の場合、姿勢制御には1〜3N程度のスラスタが搭載されることが多く、能力的にもそれで十分。しかし、「はやぶさ」シリーズにオーバースペックともいえる20Nのスラスタが搭載されているのは、それを姿勢制御以外の用途にも使うからだ。

 「はやぶさ」シリーズは小惑星探査機である。サンプルを採取するために小惑星に降下した後は、噴射して離脱しなければならない。小さいとはいえ、小惑星には重力がある。それを振り切って上昇するには、20N程度の推力が必要になるのだ。さらに「はやぶさ2」では、インパクタを使う際、急いで退避する必要もある。3N程度の推力では能力が足らず、時間がかかり過ぎてしまう。

 もう1つ、「はやぶさ」のRCSの特徴といえるのは、推力20Nで2液式であることだ。2液式というのは、燃料と酸化剤を使うエンジンのことで、軌道制御に使われる大推力のエンジンでよく採用されている。2液式に対し、1液式のエンジンでは、その名前の通り、燃料のみを使う。燃料を触媒に当て、分解反応を起こすことでガスを発生させており、構造がシンプルなので、小型のエンジンに向いている。

 一般に比推力は、2液式が300s程度で、1液式は200s程度。2液式の方が効率が良いので、その分、搭載する推進剤が少なくて済む。推力20Nというのは、通常であれば1液式で十分カバーできる領域なのだが、「はやぶさ」初号機は、ロケットの打ち上げ能力の制約が大きく、少しでも重量を軽くする必要があったため、2液式のエンジンを新規に開発したという事情がある。

 ただ、「はやぶさ2」のRCSは、スペックは初号機と同じ20Nであるものの、初号機のものではなく、2006年に打ち上げられた赤外線天文衛星「あかり」(ASTRO-F)のものに近いという。「はやぶさ」初号機では、長時間の燃焼は必要なかったが、「はやぶさ2」では退避運用時に、より長い時間の噴射を行うことになる。「あかり」の20Nスラスタはもともと軌道制御用なので、長時間の噴射にも耐えられるよう設計されていたのだ。

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