これまで、ドングルPCの標準的な構成において、必ず考察しておかなければならない項目を紹介しました。一方、追加すると用途が大きく広がるチップやソフトウェアがあります。とても全てを紹介し切れませんが、ここで幾つかの例を挙げておきます。
Bluetoothは長年の努力が実を結び、現在、オーディオ機器、携帯電話機、医療機器などで幅広く採用されています。特に、医療機器においては、Bluetoothだけを搭載しているものも多いですから、それらと接続させることで、“ヘルスケアサービスのハブ”としてのドングルPCの利用が考えられます。また、大きなポイントとして、Bluetoothは短距離というほど短距離ではなくなってきています。今や、ローカルエリアネットワークのインフラの候補にもなっています。
Wi-SUNは、低消費電力を1つの特長とする短距離無線技術ですが、先ごろ、東京電力が採用して話題になりました。スマートメーターと宅内に設置するゲートウェイ間の通信に使用されるそうです(関連記事:「2年後にはスマホにもWi-SUN」――標準化を先導するNICTがWi-SUN普及に自信)。ドングルPCがWi-SUNを装備すれば、このゲートウェイとしての役割を担うことができます。
同種の技術としては、EnOceanやZigBee IPが挙げられます。DECT方式は日本ではあまり普及していませんが、実用の歴史が長い短距離無線技術です。周波数帯が他の無線技術とかぶっておらず、データ転送速度がそれなりに高いことが特長です。欧州発の仕様で、海外ではよく使われています。状況が許すのであれば、DECT方式による安定した高速データ通信ネットワークの構成を考えてみても面白いかもしれません。
用途によっては、3GやLTEなど、いわゆる「エア」の通信を行うチップを搭載する価値もあります。設置する際に配線や設定の必要がなく、最近では特に3Gは月額が数百円台にまで下がっているので、年間でも数千円の出費にしかなりません。
ドングルPCにマイクやカメラを搭載すると、当たり前ですが、音や映像に基づくサービスが可能になります。物音や部屋の状況を把握することでセキュリティや節電につなげたり、TV視聴の様子を正確に把握したり、声や身振りで操作したり、といったことも実現できるでしょう。
例外的な事例もありますが、ドングルPCの最大の特長は何といっても“安さ”です。価格は単純には決まりませんが、1本(台)数千円というオーダーになります。ドングルPCが変に高価になると、ドングルPCとしての意義が希薄になっていきます。
もちろん、いろいろな行い(施策)により、安さは損なわれます。CPUなどの性能を上げると必然的に価格は高くなってしまいます。Androidリファレンスの全体的な品質を上げようとしても同様です。さらに、CTS(Compatibility Test Suite)認証を取ろうとすれば、さらに高くなります。ドングルPCにそのような強化を施しても、スマートフォンになれるわけでもなく、据え置き型STB(Set Top Box)になれるわけでもありません。ただ、安さにおいては、ドングルPCほどのデバイスは他にありません。だから、筆者としては、“安さを追及すること”こそがドングルPCのアイデンティティーであると考えます。
例えば、筆者が所属するイーフローが開発したドングルPC「donglee」では、安さを保ちつつ、ユーザビリティの向上、サービス向けバックエンドシステムの提供による短期商用投入を実現しています(図3)。
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