「やりたいこと」「やるべきこと」「やっていること」が一致する仕事に就け――SIM-Drive 清水浩名誉教授著名人キャリアインタビュー(1/3 ページ)

32歳の時に研究テーマを変えながらも、今や世界的に有名な研究者となった教授がいる。専門性にとらわれず「何でもあり」の発想で次々に画期的な技術を生み出してきた清水教授が没頭しているのは、電気自動車の研究。電気自動車を普及させることで、地球環境やエネルギーの問題を解決したいと真剣に考える清水教授に、理系のキャリアについて語っていただいた。

» 2013年04月22日 13時00分 公開
[MONOist]
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本記事は理系学生向けの就職情報誌「理系ナビ」2012年夏号の記事に加筆・修正して転載しています。



ポルシェより加速力のある電気自動車を開発

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 最高時速は370キロに達し、ポルシェ911ターボを上回る加速力を持つ電気自動車(EV)――。そんなEV「Eliica」を9年も前に開発したのが、慶應義塾大学の清水浩教授だ。

 清水教授はベネッセホールディングスの福武總一郎会長などから支援を受け、2009年にEVの技術開発を手掛けるベンチャー企業「SIM-Drive」を設立。2011年には1回の充電で268キロを走れる先行開発車「SIM-LEI」を、2012年には351キロを航続可能でありながら居住性にも優れた「SIM -WIL」を発表。業界関係者から注目を集めている。

 市販されているEVの航続距離はカタログ値でおおよそ200キロ前後。その一方、清水教授の開発する車は同程度のバッテリー容量で300キロ以上も走り続けることができる。清水教授は、なぜこれほどの違いを生み出せたのだろうか。

 「EVについて、100人中100人が『電池の性能が上がらない限りEVは成立しない』と言っていました。今でもそうです。私は『必ずしもそうじゃない』と思いました。電池の性能が十分ではなくても、走るためのエネルギーを限りなく有効に使うことができればいいと考えたのです」(清水教授 以下同)

 市販のEVとは違い、清水教授のEVはタイヤホイールの中に直接モーターを内蔵する。それによりモーターの小型化・高効率化が可能になり、エネルギーロスを最小限に留めている。

 また、車のフレーム構造も従来の設計手法にとらわれず、独自構造を採用。電池、インバーター、コントローラーを床下に設置することで、軽量化・低重心化などを図っている。

 「世の中の変化には、持続的な変化と破壊的な変化という2種類の変化があります。ガソリン式の自動車が生まれてから現在に至るまで、基本的な原理は変わっていません。持続的な変化で進化してきました。ですが、ガソリン車からEVに替わるのは破壊的な変化です。破壊的な変化が訪れる時には、『何でもあり』で自由に考えないと上手くいきません。発想の転換が必要なのです」

自動車好きだったが公害問題から迷いが生まれ、応用物理を専攻するように

 このように、今でこそEV推進の旗振り役を務めている清水教授だが、実は学生時代、EVを専攻してはいなかった。レーザーを研究していたのだ。

 「小さい時から車が好きでした。高校のころから『車関係の仕事をしたい』と思っていました。当然、理系に進んで大学では工学部に入りましたが、学科は学部2年で決めることになっていました。大学に入った時は『自動車を開発する道に進もう』とも思ったんですが、『待てよ』と。当時は車の公害問題がひどく、また、たくさんの方が交通事故で亡くなっていた時代でした。そんな背景があっただけに、自分の仕事として自動車を選んでしまっていいのか迷い、『すぐには決められないな』と思いました。結局、基礎的な分野である応用物理を専攻し、大学院では当時の最先端だったレーザーを選びました。修了後もそちらの分野に進んだのです」

 大学院を出てからは、国立公害研究所(現・国立環境研究所)に勤務。レーザーレーダーの開発に従事することになった。レーザーの専門家がレーザーのパワーを強くすることでレーダー性能を高めようと躍起になっていた中、清水教授は大気中の物質にレーザーが当たって散乱される光を受信する望遠鏡のレンズを大きくすることで性能を強化。逆転の発想によって、レーザーパワーを強化するよりもはるかに簡単なやり方で、画期的なレーザーレーダーを開発。

 「1つ大きな装置を作り上げたことで、『自分は本当に何をやりたかったのかな』と考えるチャンスができました。そして、もう一度考え直してみた時に、たまたま当時、国がかなりの予算を使ってEVの研究をやっていたのです。『本当は自動車が好きだったんだよな』と思い返しました。EVの勉強を始めたのはそれからです。32歳になってから、自分の方向を決めました」

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