ダイムラーは、乗り捨てOK、課金は分単位という、新スタイルのカーシェアリングサービス「car2go」を日本市場でも展開する方針だ。欧米と違って駐車スペースの確保が難しいなど立ち上げに向けた課題は多いものの、同社は日本市場に大きな可能性を感じている。
自動車の販売台数が伸び悩む日本市場。2012年前半は、エコカー補助金の効果などもあって前年比増となっているが、人口減や若年層の自動車離れなど取り巻く事業環境は極めて厳しい。その一方で、自動車を購入して所有せずに、手軽な移動手段として共同利用したいというユーザーの意識変化によってカーシェアリングサービス市場が拡大している。矢野経済研究所が2012年1月に発表した調査結果によれば、2012年の日本のカーシェアリング市場は前年比1.9倍の約117億円まで拡大する見込みだ。
とはいえ、2012年6月末時点で、日本国内でカーシェアリングに利用されている車両台数は主要8社の合計で6662台(Webサイト・カーシェアリング比較360°調べ)に過ぎない。乗用車レンタカーの総計約23万台(2011年3月国土交通省調べ)と比べれば、まだ極めて小さな市場と言えよう。
この日本のカーシェアリング市場への参入を目指しているのが大手自動車メーカーのDaimler(ダイムラー)だ。同社は2009年から、欧州や北米の都市部で、2人乗り小型車「smart fortwo(スマート・フォーツー)」を用いたカーシェアリングサービス「car2go」を展開している。
同サービスを手掛けるダイムラーの子会社car2goでCOO(最高執行責任者)を務めるRainer Becker氏が2012年6月末に来日し、東京都内でその独自のサービス内容を紹介した。Becker氏は、「世界の人口が増え続ける一方で、自動車の駐車スペースは増えていない。自動車市場の拡大が続いたとしても、駐車スペースの不足は続くだろう。そこでダイムラーは、駐車スペースを共有しながら自動車を利用するカーシェアリング市場が拡大すると考えてcar2goの事業化を始めた。世界全体でカーシェアリングの利用人口は、われわれがサービスを始めた2009年は90万人に過ぎなかったが、2016年には980万人、2020年には1500万人まで増えるだろう」と語る。
car2goの特徴は4つ。1つ目は、一般的なカーシェアリングでは難しい片道利用、つまりは乗り捨てが可能なことである。指定エリア内であればどこでも乗り捨てられる。2つ目は、会員登録さえしていれば、いつもで予約なしで利用できることだ。目の前に利用可能なcar2goのスマート・フォーツーを見つけたら、フロントガラスの裏に設置された認証装置に会員証をかざして車両に乗り込み、暗証番号を入力すれば、そのまま運転を始められる。目的地に着いたら、降車してから再度認証装置に会員証をかざせば、利用終了ということになる。
3つ目は、利用料の1分単位の課金である。一般的なカーシェアリングは10〜15分単位で課金しているが、1分単位のcar2goは乗車から降車までの利用した時間がそのまま利用料になるわけだ。利用料の他にかかる料金は、会員登録のための登録料だけである。そして、課金プランはこの1分単位の課金だけしかないので、「シンプルで分かりやすい」(Becker氏)という。
4つ目の特徴としては、テレマティクスとITの活用によって、利用可能なcar2goの位置をスマートフォンなどで検索して簡単に見つけられることが挙げられる。Becker氏は、「カーシェアリングの予約時間を基にスケジュールを決めるのではなく、自分のスケジュールにカーシェアリングの方を合わせることができる。このフレキシブルさが、他のカーシェアリングとcar2goの最大の違いだ」と強調する。
car2goは、2009年にドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州の小規模都市ウルムから始まった。3年経過した現在、ウルムの約17万人の人口のうち2万1000人以上がcar2goに登録しているという。その後、さまざまな規模の都市に展開を広げて、現在は16都市で利用可能になっている。中でも、2011年4月に始めたドイツの首都ベルリンにおけるサービス規模は大きく、約1000台のスマート・フォーツーで250km2をカバーしている。
現時点でcar2goの登録ユーザー数は全世界で10万人以上。運用されているスマート・フォーツーの総数は4000台以上になる。さらにBecker氏は、「car2goは、スマート・フォーツーのマーケティング活動ではない。事業として成り立たせるために展開してきたし、実際に現在はそうなっている」と説明する。
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