ご存じの方はご存じでしょうが、これまでオブジェット製品は、ファソテック、アルテックという2つの日本代理店で販売されてきましたが、最近、その体制にも大きな動きがありました。
前述のオブジェット・ジャパンは、ファソテックとオブジェットの合弁により設立されました。またファソテックの3次元プリンタ販売部門は、オブジェットジャパンに統合され、オブジェット代理店契約も2012年6月末で終了しています。アルテックは、引き続き日本代理店として販売していくという形となっています。
というわけで、今回のDMSでオブジェットの3次元プリンタは、オブジェット・ジャパンとアルテックの2ブースで展示されたわけです。
まず、私が気になったのは「Objet30 Pro」。現行機種の「Objet30」の上位機種に当たり、使用可能な材料が全7種類に増えました。これには透過色材料や高耐熱性材料が含まれています。比較的小型の機種で、かつ多様な素材を使用したいような場合には、検討してみたい機種といえそうですね。
さてオブジェット・ジャパンのブースでは、流暢(りゅうちょう)な日本語を話す同社代表取締役社長のエリック・ゴギー(Eric Goguy)氏や、オブジェット本社の樹脂担当のプロダクト・マーケティング・マネジャーのボーズ・ジャコビ(Boaz Jacobi)氏らに、同社における最新の開発状況や今後の方針をお聞きしました。
今回、対応いただいたジャコビ氏は、樹脂材料の担当でもあります。そこからもうかがえたのが、同社の「材料ラインアップ強化への力の入れ具合」です。
同社の特徴の1つが、現在備える材料の種類でしょう。同社のハイエンド3次元プリンタ「Connex」シリーズを使えば、現在(DMS取材時点で)用意されている107種類の材料が使用可能です。この107種類を構成するのが、17種類のベースマテリアルと90種類のデジタルマテリアルです。
デジタルマテリアルとは、2種類の異なる樹脂を同時にインクジェットで噴射しながら作成される複合材料のことです。つまり、オブジェットが用意するベースとなる樹脂以上の材料をユーザー自身が活用できるということが大きな特徴といえます。
ジャコビ氏によれば、材料の開発において、ユーザーからの強い要求をかなえるために、多くのリソースを投入しているとのことで、現時点でトータル107種類用意されている材料のうち39種類が、「ここ1年の間で新しく追加されたもの」だそうです。
このように、材料の種類が増えていくとともに、同社のプリンタが適用される産業領域も拡大しつつあるようです。今回拝見した出力サンプルの中に、スポーツシューズのソールなどゴム素材を用いたものがありました。それは、エラストマのシミュレーションが可能になってきていることを示していました。
同社は、日本でまだ開拓できていない歯科の領域について、大きなポテンシャルを期待しており、今後、力を入れて進出していきたいとの抱負を語っています。
海外では既に実績があり、現在のオブジェットでは用途に応じて2つの素材が使い分けられています。例えば、歯の矯正器具を作る際に必要な石膏(せっこう)型を3次元プリンタ製の型に置き換えていくようなことです。こちらに関しては「VeroDent」という材料があります。ほかには、人体に使用できる材料として「MED6010」も備えています。
かつて「3次元プリンタの用途」と言えば、「製品形状を素早く確認したい」というニーズに応えることでした(Rapid Prototypeという言葉がよく使われていましたね)。つまり「3次元プリントする物」は、あくまで「(パーツなど)製品そのもの」というのが一般的でした。
しかしここにきて、パーツではなくて「パーツを作る型」を3次元プリントするという動きが出てきているようです。私はゴギー社長らに連れられて、オブジェット・ジャパンのブースからアルテックのブースに移動し、そこで見せていただいたのが、ブロー成形の型と射出成形の型でした。
もちろん、量産型のように多数のショットを打つことはできませんが、量産試作の際に必要な型を同社のABSライク樹脂で作成し、そのままモールドベースに取り付けることで、費用や期間の圧縮が狙えるとのことです。これに関しては、現実的に、まだまだいろいろな課題もあるようです。しかし、ここのところの3次元プリンタの進化状況を見ていると、現在の3次元プリンタの能力にとらわれないでひとまず試してみて、その後の技術の進化を見ていく価値は十分にあるといえそうです。
パーツそのものの成形でいえば、アルテックのブースには自動車のダッシュボ−ド全体や、自動車のヘッドライトのカバーまでを含めたパーツなどが展示されており、そこから同社の「材料の多様性」を生かした活用領域の拡大が見て取れました。
自動車のダッシュボードなどの大物部品に関しても、3次元プリンタのワークサイズ内に収まるように自動的にモデルを分割してくれます。私も、その裏側の「塗装されていない接合面」を確認しましたが、かなりきれいに合わさっていました。
そこからも、3次元プリンタの実用性が年々高まってきていることが実感できました。
そういえば……、昨年のDMSレポートでは、丸紅情報システムズ(MSYS)・ブースについては、3次元スキャナのレポートを手厚く書きました。今年は、賑わっていた3次元プリンタについて取り上げましょう。
しばらく前に同社から発表があり、YouTubeなどでも動画が公開されていた新しい3次元プリンタのMojoが、ついに日本でもお披露目されました。
「uPrint」と比較すると、装置の外形が一層低くなり、もっと“デスクトップっぽく”なりました。方式はもちろん従来通りの「FDM」方式。そういう意味での目新しさはない代わりに、「どのような出力結果になるのか」の安心感があるのは確かです。
実際、私自身もさまざまな3次元プリンタで出力してみたのですが、過去、一番多く利用したのが「uPrint/Dimension」です。これは、「私の一番身近にあった」ということもありましたが、「安心感があった」のが1つだと思っています。
今回のMojoの価格が128万円と発表されたことで、200万円近くするuPrintに比べてコストパーフォマンスを感じた人も多いかもしれません。実際、今回MSYSのブースで取材していたときに、「もう買うつもりで見に来たんだけど……」なんて言いながらやってきた人もいました。
マシンがさらに小型化されたことで、ワークサイズも縦横高さ全てが約13cmになりました。造形サイズには注意が必要です。uPrintのワークサイズに慣れているとそれほどではでしょうが、Dimensionに慣れていると若干小さく感じるかもしれません。積層ピッチは「0.178mm」のみです。これは、造形のスピードが速くなったことで、粗いピッチを用意する必要がなくなったことによるようです。
いずれにしても、ワークこそ若干小さくなったものの、従来機種相当の品質が期待でき、しかも100万円にかなり近づきました。この機種の登場で、3次元プリンタ業界にどのような動きが出てくるのか、個人的には期待感を持って見守っています。
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