電気自動車(EV)や携帯型機器へ、コードを使わずに電力を送る無線充電技術。前回に続き、今回は日本における特許の実態を紹介する。調査会社のパテント・リザルトによれば、セイコーエプソンを筆頭にトヨタ自動車やパナソニック電工の特許が強い。
無線充電(ワイヤレス給電、非接触給電)技術は、米国だけでなく、日本でも研究開発が盛んである。国内では既に電気自動車(EV)が量産されており、各社とも無線充電について熱心に取り組んでいる。日本は家電メーカーの力も強い。無線充電技術は、家庭用電気製品でも役に立つ。
前回はパテント・リザルトが調査した米国特許における無線充電技術の優位性*1)を扱った。今回は、国内特許の分析を紹介しよう。
*1) パテント・リザルトは特許分析ソフトウェア開発や特許分析情報提供を行っている企業。同社は特許の優位性を示すために個々の特許に対するスコアリング(パテントスコア)を利用している。パテントスコアとは、市場における特許の注目度を数値化した指標。特許審査官の引用が多いことや、出願した企業が権利化に対して意欲が高いこと、競合会社からの無効審判を跳ね返した実績がある場合に、高いパテントスコアを与えている。
国内で出願された無線充電技術を調査したところ、1位はセイコーエプソンだったという。2位は米国特許で首位の米Access Business Group、3位はトヨタ自動車、4位はパナソニック電工(現在のパナソニック)、5位は英Qualcommだった(図1、表1)。1993年以降に国内で出願された無線充電技術、2708件を調査した結果だ。
米国特許と日本特許を比較してみよう。米国特許では、1〜5位を、米Access Business Group、Massachusetts Institute of Technology(MIT)、英Qualcomm、米WiTricit、米Powermat Technologiesが占めている。うち、MITとWiTricity、QualcommとPowermat Technologiesは協力関係、提携関係を結んでいるため、3グループに大別できる。
日本特許でも3グループのうち、Access Business GroupとQualcommが上位に食い込んでいる。MITグループはどうなのだろうか。パテント・リザルトによれば、MITの出願が数件、WiTricityの出願は0件だったという。
MITグループは「共鳴方式」と呼ばれる高効率長距離伝送が可能な技術を売り物にしている。例えば、20cm離れても効率を90%に維持できる。送電側と受電側の位置ずれにも強い。このため、EVにも向くと考えられる。
日本特許で上位5位を占める企業のうち、共鳴方式に取り組むのはトヨタ自動車だ。パテント・リザルトによれば、「他社の出願は電磁誘導方式が多い中、同社は共鳴方式に関する出願が多いことが特徴」という。
トヨタ自動車の特許の特徴は他にもある。多くの特許が豊田自動織機との共同出願になっていること、それにもかかわらず個別に評価が高い特許はトヨタ自動車の単独出願になっていることだ。
パナソニックの総合力は4位だが、現在の実力はこれよりも高いと考えられる。なぜなら、総合力で4位に入ったパナソニック電工を除いても、パナソニックや三洋電機の出願件数が多いからだ*2)。
*2) 出願件数の多さではこの他、ソニーが目立ち、個別力では東芝、昭和飛行機工業が高いという。
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