以上のような議論を通じて、電力システムに関する4つのテーマが浮かび上がったという。4つのテーマとは、電力市場の在り方の他、欧州の制度改革、PPSの実態*5)、電力系統システムの現状と今後の可能性である。
*5) 国内では電力小売の自由化が始まって10年以上が経過したものの、電力市場におけるPPSのシェアは2%程度の規模にとどまっている。これはさまざまな障壁が残っているためだ。注3で取り上げた同時同量義務が一例である。この他、PPSは送電線を所有できないため、10大電力会社の送配電線を利用しなければならない。このときの料金を託送料金と呼ぶ。米国では電気料金に占める託送料金の比率は10%以下だが、国内では20%以上と高い。
タスクフォースでは完全自由化された電力市場の姿を1つの理想として挙げた。10大電力会社を中心に需要と供給のバランスを取るのではなく、企業が自由に活動して市場メカニズムにより電力の需給が決まるという形だ。
現在の国内制度の下では、需給バランスが切迫していても需要を抑えるインセンティブが働きにくい。電気料金が変わらないからだ。論点整理では需給バランスによって電気料金が変わる仕組みが望ましいとした。
発送電の自由化には課題もある。自由化をしたとしても10大電力会社(の1部門)が支配的な力を残し、意味がないのではないかという疑問と、自由化により電力危機(停電)が起こりやすくなるのではないかという指摘だ。タスクフォースでは、これら2つの課題についても議論を重ねた。
支配力については、電力市場を政策に従って設計することが必要だとした*6)。
*6) 論点整理では送配電部門を支配的な発電事業者や小売事業者から中立に保つ仕組み作りが必要だとした。分離の仕組みは、会計分離の他、法的分離、機能分離、所有分離という4つの形がある。欧州では法的分離や所有分離が、米国では機能分離が多く採用されていると指摘した。
電力危機については、カリフォルニア電力危機が典型例だ。カリフォルニア州では1998年に電力の小売りを自由化したものの、2000〜2001年に電力供給が不足し、複数の大規模停電につながったという事例だ。
タスクフォースでは、カリフォルニアの事例を分析、中途半端な自由化が停電を生んだと結論付けた。カリフォルニア州では電力の卸取引や卸価格は自由化したが、小売価格に上限規制を残しており、卸価格が上昇したときに小売事業者が価格転嫁できずに制度が破綻したという指摘だ*7)。
*7) カリフォルニア州では発電会社と小売会社を分離し、小売会社は卸売市場からの電力調達が義務付けられていた。電力需要が高まったことがきっかけで、2000年4月から2000年12月にかけて電力の卸売料金が800%も上昇。後に破綻したエンロンによる価格引き上げなども影響した。これにより小売会社が電力の販売を停止し、停電へとつながった。当時、カリフォルニア州の全発電能力は45GWあったが、ある停電時には需要が28GWにしか達しておらず、40%近い余力があった。
電力システム改革では欧米が先行している。そこで、タスクフォースでは、イギリスやフランス、ドイツ、北欧4カ国、米国の自由化モデルを分析した。
結論は2つある。自由化によって必ずしも電力料金低下にはつながっていないことがまず1点。もう1点は、それでもなお、資源価格高騰や再生可能エネルギー導入を考慮しなければならないことだ。2つの結論を総合すると、電力の需給をより柔軟に変え、将来のエネルギー構成を原子力から再生可能エネルギーに転換していく役には立つが*8)、電力コストを低く保つには綿密な制度設計が必要だという見解である。
*8) 関連記事:「原子力から再生可能エネルギーに軸足移す、エネルギー白書2011」
タスクフォースでは以上のような議論、分析から、今後の電力システムの方向性を4点にまとめた。安価で安定した電力供給を実現する、より競争的で開かれた市場を作ることが目的だ。
*9) タスクフォースではスマートメーターの整備や電力価格決定の市場メカニズム導入が必要だと指摘した。
*10) 同じく、家庭向けなどの小口小売分野でも、PPSなどを選択できる仕組みの導入が必要だとした。
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