日本の電力インフラの品質は世界最高の水準にあり、停電に苦しむ諸外国とは違う。このような思い込みは震災以降、崩れた。電力の調達先を自由に選択でき、需要サイドによる需給管理が可能な「次世代スマート社会」をどうしたら構築できるのか。発送電分離を含む電力システムの再検討が始まった。
10大電力会社が加入する電気事業連合会は、年間事故停電時間の国際比較を公開している(図1)。
これによれば、米国カリフォルニア州の停電時間は、顧客1件当たり417分。イギリスの76分やフランスの62分と比較しても、日本は14分と少ない。つまり、日本の電力供給網(送配電系統)は世界でも最も信頼性が高いとしていた。
それでは東日本大震災以降の計画停電や、15%を目標とした電力使用制限令の施行は何を意味するのか。電力会社に完全に依存した形の電力システムが必ずしも万全ではなかったことだ。日本全国の発電所の能力が、総電力消費量を上回るにもかかわらず、電力が供給できない。これは送電や配電に課題があるのではないか。
枝野幸男経済産業相が議長を務める「電力システム改革に関するタスクフォース」*1)は、このような問題意識に基づき、2011年12月27日、3点からなる「電力システム改革に関するタスクフォース論点整理」(以下、論点整理)を公開した。「震災により明らかになった電力供給システムの問題点」「タスクフォースの議論を通じて得られた示唆」「我が国の今後の制度設計に当たっての視座と論点」という内容である。
*1) 2011年10月に設置され、6回にわたる会合により論点を取りまとめた。
2012年1月から、総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「電力システム改革専門委員会」を設置し、検討を続ける。その後、2013年の通常国会で、電気事業法改正案の提出を目指す。
論点整理では、電力システムについて7つの問題点を取り上げた。電力需要の抑制について2つ、電力供給について3つ、その他2つである。
震災後の電力需要の抑制は、硬直的だった。計画停電や電力使用制限令など、個々の需要家ごとの電力の必要性を無視した一律の規制しか採れなかったことと、需要側で自らの使用量に関する情報が十分に得られなかったことが問題だ*2)。
*2) 例えば、世田谷区長の保坂展人氏は、自らのブログにおいて、東京電力の持っている地域別のリアルタイム電力使用情報を自治体に提供するよう要請したことについて触れている。細かい単位で電力使用量がモニターできれば、需要側でさまざまな取り組みが可能だという主張だ。
電力供給の課題は、供給量を十分に増やせなかった点に尽きる。1つは各地に散らばる自家発電を一斉に稼働する仕組みがこれまでなかったことだ。次に、10大電力会社以外の一般電気事業者(PPS)が科せられていた同時同量義務*3)が解除されてフル出力が可能になったものの、PPSが利用する卸電力取引所が震災により閉鎖されてしまったことだ。最後に、日本の東西を結ぶ周波数変換装置や電力会社間の連系線の容量が小さく、国内で一丸となった対応を採れなかったことを挙げている(図2)。
*3) 同時同量義務とは、電力需要量と発電量を誤差3%の範囲で一致するように発電出力を調整しなければならないという義務。電力会社との間で30分ごとに発電量と需要量を計測し、需給のアンバランスを検出して即応しなければならない。違反した場合、電力会社にインバランス料金という高額の違約金を支払わなければならない。このため、出力を制御しにくい太陽光発電や風力発電を使ったPPS事業は、火力発電などによるPPS発電と比べて事業化が難しい。
この他の課題は、需要家が(価格や品質などに応じて)利用する電力を自由に選択できないこと*4)や、大規模電源が集中しているリスクであるとした。
*4) 例えば、電力を熱源に利用するため、品質が多少悪くても安価なものが欲しいという要望や、環境負荷が小さい再生可能エネルギーを中心に利用したいといった要望である。
このような議論を通じて、電力システム改革に必要な4つのテーマが浮かび上がった。
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