高額なシステムを買う際、上長に通す稟議のハードルは高いものだ。関氏がその高いハードルの1つを越えた際のエピソードは興味深い。
先述のデジタル屋台は、ときが経過するとともにシステムのデータが重くなり、だんだんPCのCPUの性能が満足いかなくなり、やがてピッキングシステムのセンサーが0.2秒遅れるようになった。些細(ささい)な差のようだが、作業者にとっては大きなストレスとなり、部品生産数に換算すれば相当なロスを生む。「デジタル屋台に導入されたPC45台中の35台を新しく入れ替えたい」。約700万円の稟議だった。
関氏の最初の稟議は、「無理だ」と経理担当取締役から突き返された。そこで関氏は、もう少し数字的裏付けを整えることにした。1日に扱う部品数に対して0.2秒のロスについて損失コストを具体的に算出し、700万円を約2週間で回収する想定を資料としてまとめ、経理担当取締役に再度稟議書を届けに行った。さらに「古い35台のPC、通常ならまだ十分使えるんですよ。例えば施設に寄付するとか、何か社会的貢献できませんかねぇ?」と、少し離れた机に座っている総務担当取締役の耳に届くようにしゃべってみた。
用意した資料とこの心理作戦(!?)が功をなし、見事に経理担当取締役は、ハンコをついたというわけだ。さらに、おまけ展開もあった。ローランドDGが福祉施設にPCを寄贈したことが新聞で取り上げられたのだ。当然、取締役たちの顔はホクホクしていたそう。
このように美しくまとまることはなかなかまれだが、上長に審議を通すときに、数字的裏付け以外に、何か“皆が楽しくなれるような”仕掛けを一ひねり考えてみるのもいいのかもしれない。
主に中小企業に向けた(もちろん大手企業も参考にしてほしい)「明るく楽しいモノづくり・人づくり」をするための心得について、関氏は以下のように立場別でまとめた。
■経営者の心得
■現場技術者・事務担当の心得
■情報システム担当の心得
リーマンショックや東日本大震災で、日本は大打撃を受けた。「これからのモノづくりは、どうしたらいいか」。その問いに関氏は、「いまは私にも答えはないし、必死に考えていくしかありません」と答える。「1ついえるのは、私たちは間違ったグローバル戦略をしているのではないかということです。『グローバル戦略』=『モノづくり現場を海外に持っていく』。その風潮が、私にとっては非常に“楽しくない”状況です」。
関氏の言う“真のグローバル戦略”とは、日本に拠点をしっかりと置き、国内の雇用をしっかり守り、海外から「お願いだから売ってください」と言われる製品を開発すること。そして、それを適正な価格で売り、外貨を稼ぐことだという。
「日本では人件費が高いからと、中国へという流れがあります。でも、いまの中国はインフレで給料のレベルが上がってきています。そこで次は、ベトナムだ、タイだとなっていきます。その流れを否定するつもりはないのですが、それを突き詰めていくと、最終的には『南極でペンギンがモノづくりしていそう』とか、そんな疑念を持ってしまうのです」(関氏)。
「この話をすると必ず、『それは分かるけど、理想論だよね』と言われます。そんなの当たり前ですよ。『理想』と言う言葉を辞書で引けば、その反対語は『現実』。つまり、現実と理想は、一緒になることがないということです。現実を理想に向けて頑張るのが改善活動です。一緒になることはないとすると、現実から(ある時期に定めていた)理想に到達したとき、(その時点での)理想はさらに先に行っています。だから『改善に終わりなし』『改善力は絶対必要』と言うことです」(関氏)。
デジタル屋台がテレビで紹介されたことがありました。某局は結構……、シナリオを書いてきますね。あれはよろしくない、ドキュメントなのに。局が取材に来たとき、「デジタル屋台」というネーミングはどう思い付いたのか、と尋ねられたので、私、「デジタルと屋台ってアンマッチで面白いでしょう」と答えたんです。そしたら、「ラーメン屋台で思い付いたことにしてくれ」って、お願いされたんですよ! もちろん断りましたけど。でも、オープニングのタイトルバックに、赤ちょうちんの屋台の映像が……。「コンニャロ、やりやがったな」って思いました。
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