ITRON? Android? Windows Embedded? 〜OS移行のメリットとOS選定のヒントを探る〜【前編】特集・組み込みOS採用事情(1/2 ページ)

OS移行のメリットとOS選定のヒントを探る。【前編】では、日本マイクロソフトが開催した「組み込み開発者セミナー 〜Android、Linux、ITRONなどのオープンソースを考察する〜」の中で、安川情報システムが講演した「組み込みOS採用事情」の内容をベースに、ITRONからWindows Embedded Compact 7へ移行するメリットについて紹介する。

» 2011年07月21日 10時53分 公開
[八木沢篤,@IT MONOist]

はじめに

――本特集では、日本マイクロソフトが2011年6月28日に開催した「組み込み開発者セミナー 〜Android、Linux、ITRONなどのオープンソースを考察する〜」の中で、安川情報システムが講演した「組み込みOS採用事情(1)(2)」の内容をベースに、ITRONからWindows Embedded Compact 7(以下、Compact 7)へ移行するメリット、AndroidとWindows Embedded OSとの機能面から見た違いについて紹介する。

 今回は【前編】として、安川情報システム 根本典明氏の講演テーマ「ITRONからCompact 7へ移行するメリットとは?」の内容を基に、ITRONからCompact 7への移行のヒントを探る。なお、本文中に掲載している図表は、同セミナーで使用された安川情報システムの講演資料を利用している。

ITRONからCompact 7へ移行するメリットとは?

組み込みシステムを取り巻く環境

 従来の、いわゆる「組み込みシステム」は、“単一機能”を実現する専用・特化されたシステムであり、低コスト(これに伴い限られたシステムリソースでの動作が求められ)かつ、μsec〜msecオーダーの応答性能(リアルタイム性)が必須要件として求められてきた。

これまでの組み込みシステムに求められてきたこと 図1 これまでの組み込みシステムに求められてきたこと

 このようなシステム要件を満たすものとして、これまで多く(特に日本国内で)採用されてきた組み込みOSが、ご存じ「ITRON(現在はμITRON)」だ。ITRONは、主にローエンドのCPU(8〜32ビットCPU上で動作/RAM、ROMも数Kバイト程度)をメインターゲットにしたオープンなリアルタイムOSの“仕様”(OSの内部実装はベンダー依存)であり、多種多様なハードウェア上で動作することを想定し、無理な標準化を行わない「弱い標準化」(必要最小限の標準化やガイドラインの提供のみを行う)をコンセプトに掲げた純国産の組み込みOSとして知られる。ITRONは、前述した従来の組み込みシステムの要件に非常にマッチしており、これまで数多くの機器に採用されてきた。


 そして、今――。携帯電話が“通話”という単一機能のみ(厳密にはそれ以外の機能もあったが)を実現していた10数年前から、組み込みシステムを取り巻く環境も大きく変化してきている。

 「半導体に集積されるトランジスタの数は18〜24カ月ごとに倍増する」という“ムーアの法則”に(おおむね)従い、コンピュータのCPU性能は日々進化し続けている。また、それと同時に低コスト化を推し進め、組み込み機器でさえも一昔前のPC並みの性能を発揮するCPUを搭載するようになり、組み込み機器の多機能化・高機能化をもたらしている。

昨今の組み込み機器事情(1) 図2 昨今の組み込み機器事情(1)
昨今の組み込み機器事情(2) 図3 昨今の組み込み機器事情(2)

 通話メインの携帯電話に、メール、Webブラウザ、カメラ、ワンセグ、GPS、タッチ&ジェスチャ操作といった豊富な機能を取り込んでいき、それが当たり前となった現代の携帯電話やスマートフォンのように、今、機器メーカーは多機能化による“製品の差別化”を図ろうとしている。さらに、組み込み業界全般でいえば、こうした多機能化に加え、低コスト(≠低スペック)、ネットワーク対応、セキュリティ、低消費電力といったさまざまな要求が強く求められている。

 このように現在の組み込みシステムは、多機能化に加え、多様な要求を満たすことが求められているが、従来のITRONでは昨今のこうした要求にマッチしづらくなってきているといえる(もちろん実現しようとするシステムにもよるが)。それは、例えば、“弱い標準化”故に、ハードウェア依存の実装が多く、ソフトウェアの移植・再利用が困難で、大規模開発に不向きだったり、ファイルシステムやUSBスタック、ウィンドウシステムなどの昨今のシステム要件に必須かつ標準的なソフトウェアコンポーネントが不足していたり、パワーマネジメントやセキュリティ周りの仕様が不足していたりなど、ITRONの持つ課題(弱み)が理由だ(補足)。

ITRONの特徴 図4 ITRONの特徴
ITRONの弱み 図5 ITRONの弱み
※補足:最新のμITRON4.0仕様から“弱い標準化”が緩和され、デバイスドライバに関してはある程度の標準化(DIC:Device Interface Component)がなされたり、ソフトウェアコンポーネントを流用・再利用できる仕組み作りがなされたりしている。また、最近ではTCP/IPスタックやファイルシステムが標準で用意されている製品が多い。


 では、CPU性能の向上と低コスト化によりもたらされた、多種多様な要求を満たせる“解”はあるのか? ITRONに取って代わる最適な組み込みOSは何なのか?

 本稿では、その1つの可能性を秘めたものとして、マイクロソフトの最新組み込みOSであるCompact 7を例に挙げる。もちろん、Compact 7がありとあらゆるシステム要求を満たせる“万能な答え”というわけではない。ここでは、高機能化に伴うITRONからの移行を考えた場合の1つの選択肢として、Compact 7の強み&弱みを紹介しながらその可能性を考察したい。


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