基本的なことですが、1つの工場で全ての製品を作り上げることはできません。特に中国では、いまだに現地サプライヤの提供する部品の品質が悪かったり、納期が守られなかったりということがよくあります。
お互いの努力とサポート、Win-Winの関係といってしまえば簡単ですが、中国工場で成功している日系製造業の中には、戦略的に製品の“見える部分”――形や色、寸法などに関係するサプライヤには、自社の技術者を送り込んで部品品質を高めている企業がよくあります。
この関係では、技術流出という点では、基盤部品は日本から送り込んでいるので問題はありません。
逆に現地技術者を指導育成することで良い部品の安定的な供給を受けることができます。何よりも、サプライヤのメーカーへの忠誠心を維持・確保することも可能になります。日本では、系列が容易に形成できますが、中国企業ではそうはいきません。あくまでも他国での生産であることを肝に銘じるべきです。
今回の東日本大震災では、日本から基盤部品が届かないために混乱した中国工場がたくさんありました。基盤部品は中国で生産する日本製品の心臓部であるだけでなく、これまではその技術を日本国内を置くことで技術流出を防止してきたという役割もあります。
ところが震災時には、基盤部品が震災による生産・物流停止という「ジャパンリスク」で届かなくなったことが原因で中国の生産が止まったのです。当社の顧客にヒアリングしたところでは、これをきっかけに、部材ありきの能力スケジュール計算ではなく、制限された部品の現有在庫でいつまで生産できるのか? ヨーロッパなどに船便で輸送する製品(=比較的リードタイムが長いもの)の基盤部品を中国国内の需要に向けた場合、いつまでに日本の生産が回復し主要パーツがくれば良いのか? などを盛んにシミュレートすることになったようです。
当社の中国ビジネスは当初、日本で一定のシェアを持つ生産スケジューラを商材としていることから、日本の製造業の工場が中国に生産移管をされる際に一緒に採用いただけていたという経緯があります。
いまはできるだけ多くの中国の先進製造業に当社製品を使っていだき、やがて中国の工場が世界展開する際にはまた、世界の工場にも展開してほしいと考えています。
日本の製造業の高い製品品質と、それを作り込む管理手法は多くの中国工場で評価されています。日系の中国工場で当社製品を使用されていた方が、新しく中国民営の工場に転職された際に、その生産管理手法とともにツールとして推奨いただけるというようなこともよくあります。当社が中国で製品を開発し、世界に提供する……、そんな時代もやがて来るのではないかと思っています。
さて、世界に製品を売り出すために必要な体制とはどんなものでしょうか?
まず考えられることは販売網の確立です。日系製造業が中国市場でその確立に苦慮したように中国からハードウェアのみが出荷されても、既存の外資系製造業のOEM製品であれば別ですが、中国独自ブランドとなれば、独自の販売網を築く必要があります。この点では筆者も大変苦労しており、それぞれ国情に違う国で代理店を持つことなれば、言葉の壁だけでなく商習慣の問題も大きく横たわります。
さらにいえば、ハードウェア、ソフトウェアに関係なく利用される製品に対しては、その保守作業も不可欠です。製品を売り切っただけでは、地元のメーカーが勝つことはできません。この点でも、メーカー本社は海外を支援できる体制を整えていかなければならない宿命を背負います。言葉でいえば簡単なようですが、ある意味で製品の生産以上に苦労させられる世界かもしれません。
このような状況下でも中国で先進企業のグローバル展開は確実に進んでいます。次回はその例としてある企業を紹介します。この企業は世界的なハイテク企業ですが、社長は中国人、本社工場も中国国内に置きながら、資本は海外資本、しかも世界展開には世界の工場をM&Aで入手するといったスピード経営をしています。ぜひ次回をご期待ください。
(株)DATA COLLECTION SYSTEMS代表取締役 栗田 巧(くりた たくみ)
1995年 Data Collection Systems (Malaysia) Sdn Bhd設立
2003年 Data Collection Systems Thailand) Co., Ltd.設立
2006年 Data Collection Systems (China)設立
2010年 Asprova Asia Sdn Bhd設立- アスプローバ(株)との合弁会社
1992年より2008年までの16年間マレーシア在住
独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。
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