複数のビルの消費電力をまとめて管理するには、日本IBMの事例から学ぶスマートグリッド(1/3 ページ)

ビルの消費電力を削減するにはどうすればよいだろうか。どのビルでも消費電力量をモニタリングできる。しかし、昨今の電力事情に対応するのは難しい。日本IBMは、人の動きを低コストで検知するなど、複数のビルにまたがったエネルギー管理システムを作り上げた。

» 2011年07月11日 11時40分 公開
[畑陽一郎@IT MONOist]

 国内の大規模なオフィスビルでは、空調や照明などのモニタリングがごく当たり前になっている。しかし、各ビルの管理システムはビル内で閉じていることが多く、複数のビルの状態を常時モニタリングし、分析を加え、消費電力を引き下げ、資産を運用することは容易ではない。

 日本IBMによれば、全世界のエネルギーの1/3がビル内で消費されており、都市への人口集中が続くことから、2025年には交通部門や製造部門よりもビルの排出するCO2(二酸化炭素)の方が多くなる見込みだという。

 10年以上の未来を展望しなくても、国内では照明や空調の削減が強く求められている。既に省エネの進んだ大規模オフィスビルではこれ以上、何ができるのだろうか。日本IBMの事例にはヒントが隠されている。

照明や空調とノートPCをヒモ付ける

 誰もいない部屋の照明や空調ほど無駄なものはない。だが、個々の従業員に管理を任せるだけでは限界がある。オフィス全域に人感センサーやGPSなどを導入すれば管理できるものの、コストが掛かりすぎる。どうすればよいのだろうか。

 日本IBMは、本社オフィス(IBM箱崎ビル、地上25階、延べ床面積13万5600m2)に設置されている無線LANとノートPCを使って、照明と空調の状況を分析、管理している。無線LANのアクセスポイントは位置が固定されているため、フロアの区画とのマッピングはたやすい。約3万5000台のノートPCが接続するアクセスポイントをリアルタイムに把握する*1)ことで、ビル管理システムと照合し、空調制御の最適化につなげることができた(図1)。

*1)ノートPCの接続状況とセキュリティシステムを連動することで、管理コストを下げ、運用コスト削減の相乗効果を生むこともできるという。

ALT 図1 照明と空調の状況を把握・分析する手法 フロア別、時間別の在籍状態をIBM Cognos Business Intelligenceで表し、資産管理、作業管理が可能なIBM Maximo Asset ManagementでKPI(key performance indicator)を表示している。必要なセンサー情報はBEMSから取得している。出典:日本IBM(以下の図版を含む)

 「本社オフィスは10年間で従業員の数が2倍になる一方、エネルギー消費量は1/2に減っている。既に無駄を絞りきったビルで、さらにエネルギー消費量を減らすには、人の位置情報がどうしても必要だった」(日本IBM ソフトウェア開発研究所Tivoli開発の磯部博史氏)。

範囲が狭ければセンサーがよい

 利用者の出入りが激しく、空室になることが多いフロア区画がある。会議室だ。日本IBM本社では18カ所の共同会議室に人感センサーを配置し、リアルタイム監視ソフトとしてIBM Tivoli Netcoolを使い、リレー盤とも接続した*2)。会議室予約システム(IBM Lotus Notes)との連携動作を狙い、会議室利用率の最適化も試みた(図2)。

*2)日本IBMはエネルギー管理に必要なセンサーや制御ハードウェアを内製せず、パートナー企業と協業する方針である。リレー盤とIBM Tivoli Netcoolの接続では、Tivoliパートナーの旭エレクトロニクスが取り扱う「OPTO 22 SNAP PAC System」を使った。

ALT 図2 会議室システムの構成図 Web上の会議システム予約システム以外に、液晶ディスプレイを使ったサイネージ画面も用意した。

複数の事業所をまたがった管理へ

 以上の2つの事例では、最適化範囲が1つのビル内にとどまっている。日本IBMはクラウド(IBM Smart Business Cloud Enterprise)を使った電力モニタリングシステムも構築した。関東地方の3つの事業所のBEMS(Building and Energy Management System)情報を1時間ごとに取得し、IBM Maximo Asset ManagementをWebサービスとして利用して、2種類の方法で消費電力データを表示できるようにした。

 1つは一般社員向けの表示だ。社内の88のWebサイトのページ右上に小型のウィジットを埋め込んで、電力の使用状況をグラフ表示したり、過去13時間の電力使用状況を確認できるようにした。電力使用状況を見える化することで、節電意識の向上を狙ったという。

 もう1つは、管理者向けのダッシュボード表示だ。目標値に対する達成度(KPI)を表示することで、期間ごとの消費電力計画を立てやすくする。

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