現時点におけるJasParの最大の活動テーマは、実用化の道筋が見え始めてきた車内LAN(制御向け)の次世代規格「FlexRay」の仕様策定である。JasParでは現在、以下のワーキンググループが稼働あるいは近日活動開始予定であるが、ほとんどが何らかの形でFlexRayに関連している。
現行でも、車内LAN規格としては「CAN(Controller Area Network)」が世界標準として普及している。CANは通信速度が最大1Mbit/sで、イベントトリガ方式である。だが、イベントトリガ方式には、通信するイベントが重なると遅延が予測不可能になりやすいという弱点があり、信頼性・安全性を求められる制御には向いていない。そのため、CANの主な用途はドアやメーターなど、信頼性や安全性への要求が比較的低いボディー系である。
ワーキンググループ | 活動内容 |
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車載LAN | ・次世代車載LAN開発テーマの企画 ・各車載LAN関連WGの取りまとめ ・車載LAN開発ツールチェーン構築など |
FlexRay配索 | ・FlexRay配索理論、規程仕様検討 ・ハーネス設計ガイドライン検討など |
FlexRay回路 | ・FlexRayコントローラ、トランシーバ推奨回路検討 ・FlexRay配索評価回路仕様検討 ・レジスタ推奨設定仕様検討 |
FlexRayコンフォーマンス | ・FlexRay相互接続評価規程の検討 |
ソフト | ・FlexRay通信ソフト(NM、COM)仕様検討 ・各種ソフトウェアの開発など |
標準化 | ・国内外の標準化団体との窓口 |
知的財産権 | ・JasParで開発した知的財産、会員の知的財産の運営方法検討 ・知的財産にかかわるビジネスモデルの検討など |
JasParのワーキンググループ(WGの活動:https://www.jaspar.jp/guide/activ.htmlより) |
その点、FlexRayは通信速度が最大10Mbit/sでCANの10倍。タイムトリガ方式により、どのECUがいつ送信を実行するか、厳密なスケジュール設定が可能(イベントトリガ方式にも対応)。通信経路を2重化できるので信頼性も高い。そのため自動車の要である走行制御系への展開が可能であり、車載カメラで危険を察知して自動でブレーキを掛けるなど、いわゆる「X-by-Wire」(注)アプリケーションにも対応できる。
CAN | FlexRay | |
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最大通信速度 | 1Mbit/s | 10Mbit/s |
チャネル数 | 1チャンネル | 1-2チャンネル |
通信方式 | イベントトリガ | タイムトリガ(イベントトリガ) |
接続方式 | バス型 | バス型、スター型、混在 |
CANとFlexRayの仕様比較 |
FlexRayは「FlexRay Consortium」が規格策定を行っているが、コアメンバの多くはAUTOSARと同じ。つまり、欧州勢が主導権を握っている。そうした状況でJasParがFlexRayに力を入れるのはなぜか。柿原氏は「CANでの苦い経験を繰り返さないため」と述べる。
CANはボッシュが開発した技術であり、当初はライセンス供与されていたが(1994年にISO化)、仕様記述が抽象的だったり、詳細が規定されていなかったため、各ライセンシが独自に作り込む部分もかなりあった。その結果、同じCAN対応製品でも微妙な違いが発生。自動車メーカーが複数のサプライヤからECUを調達し、CANで接続しようとしてもスムーズにつながらず、検証・修正に多くの工数を掛けなければならなかった。標準規格といっても完全なものではなかったのだ。
「このままではFlexRayでもCANと同じ状況が生まれる恐れがある」(柿原氏)という危惧がある。そのため、JasParは発足直後からFlexRay Consortiumが策定した規格をベースに、実装レベルでの仕様策定に取り組んできた。ここにも擦り合わせ文化が生きている。
「CANの二の舞いを防ぐ」というJasParの強い意思が伝わったのか、FlexRay ConsortiumとAUTOSAR、JasParはFlexRayの標準化で協業体制を組むことになった。FlexRay Consortiumがプロトコルやバスシステムなど、AUTOSARがシステムアーキテクチャや方法論の仕様を決め、JasParがこれら仕様をレビューするという役割分担である。この協業体制の実効性は不明だが、少なくとも日本の自動車産業にとってFlexRayは、CANのようなお仕着せで使いづらい標準規格とはならないだろう。
関連リンク: | |
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