続いて須毛原氏は、実際に身体を動かしたり、周囲の状態を捉えたりするハードウェアへと“解剖”を進めた。ヒューマノイドを構成する15の中核部品のうち、8つはEV由来、7つはロボット固有の部品だと整理した。
中国はEV産業で培った部品やサプライチェーンを生かし、ヒューマノイドを速く、安く作れる量産基盤をすでに築いている。
一方、ロボット固有の7部品、具体的には空心杯(コアレス)モーター、ハーモニック減速機、遊星ローラーねじ、六軸力覚センサー、触覚センサー、多指ハンド、AI演算ボードについては、すでに特定の国が強みを持つ部品もあれば、まだ決定的な優位が定まっていない部品もある。
このうちハーモニック減速機は、日本が強みを持つ部品の1つだ。減速機は、モーターの回転を減速しながら大きな力に変え、関節の動きを支える重要部品となっている。須毛原氏は、ハーモニック減速機について日本を「世界一」と評価した。
しかし続けて、「部品で世界一であることと、ロボットを安く量産できることは別の話」とも指摘。中国では、安く量産しやすい遊星歯車減速機や、ドローン産業で培った技術を生かしたQDD(準ダイレクトドライブ)なども採用している。部品単体の性能だけでなく、用途に応じて方式を選び、機体として安くまとめ上げる力が量産競争力につながっている。
他方、ロボット固有の7部品のうち、SUGENAが「働けるか」という観点で「決定的」と評価したのは、触覚センサー、多指ハンド、AI演算ボードの3つだ。中でも課題が大きいのが、手に関わる触覚センサーと多指ハンドである。
人間の手は片手だけで20を超える自由度を持ち、指先では圧力や振動、温度、滑りなどを感じ取っている。これに対し、ヒューマノイドの手は2本指のグリッパーから5本指のハンドまで機種による差が大きく、触覚機能もまだ限定的だ。
例えば、物が滑ったことを検知して握り直すといった、人間なら無意識に行う動作を機械で再現するのは難しい。須毛原氏は、物をつかむ、押す、差し込むといった接触を伴う作業では、いわゆる「最後の数mm」が世界共通のボトルネックになっていると指摘した。
触覚センサーと多指ハンドは、日本、中国、米国のいずれも決定的な優位を確立しておらず、「これからの勝負になる」領域だという。加えて、15の中核部品全体で見ると、遊星ローラーねじやサーボドライバ、六軸力覚センサーもまだ特定の国が抜きん出ておらず、SUGENAは日本にも取りにいく余地があるとみる。
須毛原氏は、ヒューマノイドの普及を阻む課題として、前述した手の課題に関わる「接触する仕事」と、「現場のデータ」「連続して働けるか」の3つを挙げた。
実験室から工場などの現場へ展開する際、シミュレーター上では問題なく動作しても、実際の現場ではセンサーの誤差や摩擦、対象物の重さ、通信の遅れ、機体ごとのばらつきなどが生じ、同じようには動かない。いわゆる「Sim-to-Real」の壁だ。この差を埋める上で重要になるのが現場のデータである。現場でロボットを動かし、そこで得られるデータを学習や改善につなげていくことが求められる。
この点で、日本には強みになり得る資産がある。豊富な製造現場と、そこで長年蓄積されてきたノウハウだ。ただし、その多くは紙や人の頭の中に残り、実際の作業動作とひも付いたデータにはなっていない。ロボットの学習に生かすには、映像や動作データだけでなく、成功例や失敗例、そのときの条件まで記録し、使える形で蓄積していく必要がある。
しかも、必要なデータ量は膨大だ。連続作業を学習するには300万〜400万時間規模のデータが必要になるとの見方もある一方、実証実験(PoC)で集められるのは1万時間程度にとどまり、300〜400倍もの開きがある。日本の強みを生かすには、現場で生まれるデータを集め、管理し、ロボットの学習と改善に回せる仕組みをつくることが重要になる。
「連続して働けるか」を左右するのは、電池と熱だ。現在のヒューマノイドは1〜2時間で充電が必要になる。SUGENAは、抜本的な解決には全固体電池の実用化が鍵になるとみており、この課題が解ける時期を2028年前後と見積もる。
SUGENAは、3つの課題がそろって解決に向かうのは2030年前後で、そこから普及が始まり、2035年ごろにはヒューマノイドが当たり前の存在になると見通している。
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