フィジカルAIに“二刀流”で対応するアドバンテック、日本に第3の製造拠点を構築組み込み開発 インタビュー(1/2 ページ)

産業用PCで世界シェアトップのアドバンテックが、エッジAI市場の拡大に併せて組み込み機器部門の事業への注力を鮮明にしている。アドバンテック台湾本社のTony Chen氏と、アドバンテック日本法人の李威震氏に、フィジカルAIをはじめエッジAIを中核とする事業戦略について聞いた。

» 2026年07月03日 07時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 産業用PCで世界シェアトップのアドバンテック(Advantech)が、エッジAI(人工知能)市場の拡大に併せて組み込みボードや組み込みコンピュータを手掛ける組み込み機器部門の事業への注力を鮮明にしている。

 「COMPUTEX TAIPEI 2026」(2026年6月2〜5日、台北市)と合わせての開催となったパートナー向けイベント「2026 Advantech World Partner Conference(WPC)」では、エッジAI(人工知能)の開発から導入、運用までを統合的に管理するソリューション「WEDA(WISE-Edge Developer Architecture)」を発表し、ハードウェアだけでなくソフトウェアやサービスにも事業を広げていく構えだ。

 このエッジAIを中核とする事業展開において、日本市場も重要な役割を果たすことになる。それは、フィジカルAIの主要なアプリケーションであるロボット産業をはじめ有力な製造業の顧客が日本に多数存在するだけでなく、台湾と中国に次ぐ“第3の製造拠点”として日本の直方事業所(福岡県直方市)に大型投資を行っている点からも明らかだ。

 そこで、アドバンテック台湾本社のバイスプレジデントで、Embedded IoT事業部内で受託製造事業を担うACG(Applied Computing Group)のトップであるHead of ACGを務めるTony Chen氏と、アドバンテック日本法人 エンベデッドIoTグループ シニアダイレクターの李威震氏に、エッジAIを中核とする事業戦略について聞いた。

アドバンテック台湾本社のTony Chen氏(右)とアドバンテック日本法人の李威震氏(左) アドバンテック台湾本社のTony Chen氏(右)とアドバンテック日本法人の李威震氏(左)[クリックで拡大]

フィジカルAIの時代に向けて3本柱の戦略を推進

MONOist:フィジカルAIへの注目が集まる中で、アドバンテックは組み込み機器部門であるEmbedded IoT事業をどのように拡大していく方針ですか。

李氏 フィジカルAIでは、現実世界で起こったことを検出し、その結果から判断して行動するというループを実現することが求められる。このループは、クラウド上ではなくエッジで完結する必要がある。アドバンテックは、ハードウェアだけでなくソフトウェアプラットフォームの「WISE IoT」とサポートという3つのレイヤーを一気通貫に統合して提供することを重視している。

 この体制に加えて、エコシステムと顧客との共創も重要だ。NVIDIAやインテルなどのシリコンパートナーに代表されるエコシステムと、そして製造業を含めた日本の顧客をつなぎ合わせ、フィジカルAIのプラットフォームを構築していきたいと考えている。

Chen氏 従来のAIはクラウドなど少し離れた場所にあるもので、その処理に遅延があっても問題ない用途で使われるのが一般的でした。しかし、現実世界との相互作用が存在するフィジカルAIでは、わずか数msの遅延やエラーが致命的な結果をもたらす可能性がある。

 このフィジカルAIの時代に向けて、Embedded IoT事業では3本柱の戦略を推進していく考えだ。1つ目は、アドバンテックが提供する組み込み機器に、NVIDIA、インテル、クアルコム、AMD、NXP Semiconductors、MediaTekなど世界トップクラスのシリコンパートナーの製品を緊密に統合することだ。2つ目は、仮想環境であるデジタルツインを用いたシミュレーンに基づく検証結果を現実世界につなげるための架け橋となることだ。ACGによる設計と製造の受託サービスは、高度なカスタマイズや認証取得などに対応しており、仮想環境と現実世界のギャップを埋める「Sim2Real」を可能にする。

 3つ目は、日本の顧客との共創だ。日本は半導体製造や産業オートメーション、ロボティクスなど世界で最も進んだ技術を有しておいる。当社の技術によってエッジAI、ひいてはフィジカルAIを実現し、さらなる発展に貢献したい。

アドバンテックが「COMPUTEX TAIPEI 2026」で展示したヒューマノイド向けソリューション アドバンテックが「COMPUTEX TAIPEI 2026」で展示したヒューマノイド向けソリューション。人間の脳に当たる高性能システムからセンサーまで幅広くカバーしている[クリックで拡大]

MONOist フィジカルAIで注目を集めるヒューマノイドにはどのように対応していきますか。

李氏 ヒューマノイドのフィジカルAIでは、VLA(視覚言語動作)モデルやLLM(大規模言語モデル)をリアルタイムに同時並行で処理する人間の脳に当たるシステム、カメラやセンサーなどから得た情報を用いて周辺の状態を認識する人間の反射神経に当たるシステム、これら全てをひっくるめて同時進行で処理することが求められる。オーケストラによるクラシックコンサートの演奏者のように統制が取れていなければならない。

 アドバンテックは、脳に当たるシステムを可能にする超高性能の組み込みボードだけでなく、SLAM (Simultaneous Localization and Mapping)やマルチカメラ、IMU(慣性計測ユニット)など個別のセンサーから、これらのセンサーを組み合わせたセンサーフュージョンなど反射神経に当たるシステムを実現するソリューションも併せて提供できることが強みになっている。

Chen氏 当社はヒューマノイドそのものを製造しているわけではないが、ヒューマノイドを構成するシステム全体がスムーズに連携して動作できるようにシリコンパートナーと深いレベルで共同開発を行っている。今回発表したWEDAはその成果の一つだ。

 その一方で、標準規格の組み込みボードをそのまま使うと顧客が開発したいヒューマノイドにおいてサイズや冷却の問題が出ることもあり得る。そこで力を発揮するのが、ACGによる設計/製造サービスであり、顧客が求める要件に合わせたAI処理性能や消費電力、熱などについてカスタマイズすることが可能だ。

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