サイバーセキュリティとともに、新たな取引条件として、定着が進みつつあるのが、脱炭素などを含む環境規制への対応だ。米国で第2次トランプ政権の誕生後、環境対策については、トーンダウンも指摘されてきたが、米国政府の補助政策などを除き、米国内のグローバル企業や、欧州、日本などでは粛々と取り組みが進んでいる。2025年12月にESG戦略の説明会を開いたリコーでは「大手企業との商談ではESG対応が選定要件になっている」(リコー ESG戦略部 ESGセンター 所長の阿部哲嗣氏)とし、ESG対応で進んでいたからこそ受注できた事例などを紹介している。
既に国内でもサステナビリティ情報の開示は、東証プライム上場企業に対し2022年度(2023年3月期)から開始されている。さらに、2026年度(2027年3月期)からは、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)基準を全て取り入れる改正案が検討されており、これが受け入れられた場合、東証プライム上場企業は「スコープ3」での温室効果ガス排出量の順次開示が義務付けられることになる。
GHGプロトコルのスコープ3は、製造企業だけでなく、その製品に関するサプライチェーン(や関連活動)全ての温室効果ガス排出量を合計して示す必要がある。そのため、厳密な計算をするためには、サプライヤーや取引先から温室効果ガス排出量を収集する必要が生まれる。現在は、2次データなどを活用した推計値を利用するケースも多いが、スコープ3の排出量低減を進めていくためには、より精緻なデータ取得が必要となり、サプライヤーや取引先との綿密な情報連携は必須となる。自動車業界など業界ごとに業界団体が取りまとめて推進するケースもあるが、その他の業界の大手企業などは、サプライヤーを集めた説明会や情報開示を個別で進めるケースも多く、これらの企業と取引を進めるためには、温室効果ガス排出量などを開示できる体制を構築しておいた方が優位だといえる。
実際にMONOistが2025年4〜5月に実施した読者調査では「脱炭素/カーボンニュートラル」に取り組む動機として「取引先から求められている、また今後求められる可能性があるから」とした回答が30.7%となっており、大手企業の対応が進む中で、これらと取引を行う中堅企業や中小企業でも徐々に対応を進める動きが広がってきていることが伺える。
欧州では、さらに脱炭素に関して欧州炭素国境調整措置(EU CBAM)の本格運用を2026年から開始する。これはEU域外諸国からのセメント、アルミ、肥料、電力、水素、鉄鋼の輸入について、製品当たりの炭素排出量に基づく証書の購入を求めるものだ。これらの他、欧州ELV規則など、資源循環に関する規制強化も進みつつあり、環境への対応が選定要件となるケースが増えてきている。
セキュリティについても、環境対応についても、直接的に製品の機能や性能には直結しないかもしれない。しかし、世界の方向性として「正しくあるべき姿へ」という要求が強まる中、製造業として、より安全でクリーンであることが求められており、サプライチェーンをその限られたクリーンな取引先だけで構築しようとする動きは今後も強くなる一方だ。その意味では、より前向きに取り組み、差別化につながる強みとしていくことが日系製造業には求められてくるだろう。
サプライチェーンから外されないためのサイバーセキュリティ対策
製造業のサプライチェーンセキュリティ対策に欠かせない「TPRM」とは?
製造業の欧州CRA対応を支援するソリューション、「何から始めれば…」に対応
いまさら聞けない「スコープ3」
工場でCO2排出量1次情報をなぜ取得すべきなのか 85%以上の削減効果も
脱炭素や品質などデータ共有の仕組みで主導権争い、取引条件が変化する2024年Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製造マネジメントの記事ランキング
コーナーリンク