受託加工業のための新たなブランド戦略 マルチアングルブランディングとは?間違いだらけの製造業デジタルマーケティング(27)(2/4 ページ)

» 2025年05月07日 09時00分 公開

市場と対話する仕組み:フィードバックコンセプト(訴求軸)

 自社が持つ複数の技術や強みを多角的に打ち出すことで、顧客に認知してもらいやすくなる。しかし、ユーザーが最も気にしているのは「どのような価値を提供してもらえるか」という点である。市場やユーザーによって顧客の評価やニーズはまちまちのため、自社の強みを“相手目線”で再構築する必要がある。これを「フィードバックコンセプト」と呼ぶ。

 以下は、ユーザーが企業を選ぶ際に主にチェックするポイントの例である(図2)。

ユーザーが企業を選定する際に重視するポイントの例 図2 ユーザーが企業を選定する際に重視するポイントの例[クリックで拡大] 出所:テクノポート
  • 品質:製品の精度、仕上がり、品質基準の順守
  • 納期順守:予定通りの納品、遅延の有無
  • コスト:予算内での費用、コストパフォーマンス
  • 技術力:加工技術、専門知識、設備の充実度
  • 柔軟性:要望変更やトラブル対応への適応力
  • 加工実績/技術実現可能な根拠:領域における実績やノウハウ
  • コミュニケーション:情報共有、フィードバックの速さ、対応の明確さ
  • 安定性/信頼性:長期的に安定した品質やサービスの提供
  • 環境対応/社会的責任:環境への配慮や法令順守
  • 一貫対応(全工程を通じた対応):初期設計から最終製品まで一貫して任せられる
  • 仕様相談:発注側のニーズに応じた的確な仕様提案やアドバイス
  • VA(Value Analysis)提案:機能とコストの最適なバランスを探り、コスト削減を図る
  • VE(Value Engineering)提案:設計段階でコスト削減を図りつつ、品質/性能を高める

 これらの評価軸は、発注側のニーズや目的によって優先度が異なる。また、マルチアングルブランディングでは、受注側が想定している提供価値とユーザーが実際に求める価値が食い違う可能性がある点にも注意が必要である。

 例えば、特定の領域や市場において「価格が安く、納期が早い」と自社が想定していない評価をされた場合には、それを一つの特徴として捉え、特定の市場セグメントでポジションを再定義することが求められる。

ブランドはどう評価されるか?

 例えばIT業務において、A君は「作業スピードが速く」、B君は「納期厳守に長け」、C君は「大量のタスクをこなすのが得意」だとする。このような特徴(速さ/納期厳守/大量対応)は本人の意思にかかわらず、“個人ブランド”として周囲に認識される。顧客や上司は、案件の特性に応じて「スピード重視ならA君」「納期が厳しいならB君」というように役割を振り分けるため、結果としてブランドが自然に確立されるのである。

 これは企業のサービスや製品にも同様に当てはまる。「ITサービスなら○○社」とひとくくりにするのではなく、「スピード重視のプロジェクトには○○社」「納期厳守が必須の案件には××社」といった具合に、顧客のニーズに応じた選択が“役割ベースのブランド化”を促進する。すなわち、それぞれの特徴を明確に打ち出し、実績を重ねることで、周囲からのブランド評価は自然と高まるのである。

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