要求仕様書のセルフチェック(レビューなども含む)をしないまま先に進めると、潜在するバグが次の工程へ波及し、前のフェーズに戻って作業する必要があります(図4)。
図4は、ウオーターフォールモデルにおいて、バグが波及していく様子と手戻りのイメージです。ウオーターフォールモデルは、次のフェーズに行くだけとの誤解がありますが、逆方向へも進みます。
要求仕様を定義するフェーズでバグを潰しておかないと、次の設計、実装、テストフェーズにバグが波及し、バグが深く広く拡散します。仕様書段階なら数百円で修正できたバグも、顧客にリリースした後では、修正に数千万円もかかります。例えば、銀行のATM制御プログラムにバグがあると、バグ修正のために24時間稼働のシステムを一時、止めねばなりません。システム停止は短時間なので、その間にシステムの入れ替えと、正常に稼働するかのチェックが必要です。「短時間の1回勝負」は、精神的に大きなストレスになります。時間的な余裕がある要求仕様フェーズでバグをしっかり潰しましょう。
バグが見つかると、手戻り(前の工程に戻って作業する)が発生するでしょう。例えば、実装フェーズで要求仕様起因のバグが発生する場合は、要求仕様フェーズに戻って修正することになります。これは、すごろくで1マス進んだつもりが、「止まったマスで4マス戻れ!」と言われる絶望感と変わりありません。
セルフチェックでは全てのバグは潰せず、次の工程へ波及するバグもあります。他人が使う製品は、まずは「確実にセルフチェックをすべき」というのが筆者の意見です。これは、ウオーターフォール、アジャイル、スパイラルなどの開発方法論にもよらない最低限のことだと筆者は考えています。
今回は、作成した要求仕様書のセルフチェックに着目しました。まず、「自分の完璧」がいかにあてにならないかとのイメージを共有し、自分自身で要求仕様書をセルフチェック(脳内シミュレーション)しましょう。「やっておいてよかった」と思うバグが必ず見つかります。
セルフチェックで全てのバグが見つかるわけではありませんが、セルフチェックは必要条件です。後工程で大事件が起きないよう、まずは自分自身でしっかりチェックする必要があります。
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東海大学 大学院 組込み技術研究科 非常勤講師(工学博士)
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