熊本大学は、外場応答性を示さない金属錯体分子ユニットに磁気スイッチング特性を付与する水素結合集積体を開発した。構成する有機配位子の化学修飾により、磁気スイッチング挙動の発現温度を制御できる。
熊本大学は2024年9月9日、外場応答性を示さない金属錯体分子ユニットに磁気スイッチング特性を付与する水素結合集積体を開発したと発表した。構成する有機配位子の化学修飾により、発現する温度を制御できる。
研究では、コバルトイオン(Co2+)と鉄イオン(Fe3+)から合成した二核錯体ユニットに、対称性を持たないキラルなカルボン酸である(+)‐カンファー酸を加えて結晶化。二核ユニットと(+)‐カンファー酸が水素結合により、一次元鎖状に集積した構造の分子ユニットを作製した。
この一次元鎖状集積体を用いて、磁化率の温度依存を測定したところ、温度変化による急激な磁気挙動の変化を観測。反磁性と常磁性を可逆に変換可能な磁気スイッチング挙動を示すことが明らかとなった。発現する温度は配位子の違いにより変化し、分子の有機配位子の組み合わせや集積化方法でスピン状態を制御できると考えられる。
また、(−)‐カンファー酸を用いた水素結合集積体では、(+)の場合と同様の構造や挙動を示したが、等量の(+)と(−)のカンファー酸を用いた水素結合集積体では、不完全な磁気スイッチング挙動となった。局所的な構造的乱れに基づく格子欠陥やドメインサイズ変化が原因と見られ、分子の構造と水素結合供与体の分子のキラリティが、完全な磁気スイッチング挙動の発現に重要であることを示唆している。
水素結合形成を介した分子内電子移動による、新しい外場応答性磁気スイッチング分子の開発に応用できる見込みだ。
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