伊藤さん 既存事業を継続して改善するのか、既存事業の売り上げを拡大するのか、もしくはM&Aにより事業を拡大するのか。その戦略について、影山さんは当初どのように考えておられたのでしょうか?
影山さん 私が影山鉄工所に入社した当時は売り上げ1億5000万円と非常に小さな規模の製造業でした。そのため設備投資したくても、銀行の融資では金額が小さく、工場のキャパシティーを拡大することは困難でした。
では、低リスクでできることは、と考えた結果、仕事の「段取り」を良くしていくのがいいと考えました。つまり、10人のメンバーのまま同じキャパシティーで売り上げを拡大するにはどうすればいいか、ということです。
伊藤さん その結果どういう取り組みをされたのですか?
影山さん 工程管理や生産管理を行うシステムの開発、導入です。このシステムにより段取りスキルが高まり、生産性が高まりました。
伊藤さん 私たちも工程管理システムの導入により改革が加速しました。システム導入の結果、財務基盤も改善していきませんでしたか?
影山さん はい。財務基盤が改善し、P/L(損益計算書)が改善し、B/S(貸借対照表)が改善し、銀行とも関係が良好になっていきました。
伊藤さん 私たちは限界利益率を重視して、この指標を60%まで改善しました。影山鉄工所さんはどんな数値を重視しておられますか?
影山さん 会社としてはやはり利益率ですが、特にEBITDA(利払い前/税引き前/減価償却前利益)を重視しています。経営者としてはROA(総資産利益率)を高めるべきだと考えています。投資の適正さをどう判断していくか、そこを考えるのが私のこれからの役割です。
――M&Aを行う場合、相手の会社にとって気になるポイントはどのあたりでしょうか?
影山さん M&Aをご希望される会社は、事業承継にお困りであることが多くあります。ただ社長自身の年齢が高く、DXやブランディングなどが必要なことは理解しつつも、自分自身では取り組みが難しいというケースが見られます。さらにM&Aとなると、自社の従業員が不安になるのではないか、と心配される場合もありますね。
――そのため、影山鉄工所が蓄積した改革のノウハウを共有する、ということでしょうか?
影山さん その通りです。財務ノウハウ、ICTによるDX、HR(人事)、ブランディングといった、これまで影山鉄工所自身で実践してきた改革のノウハウを、M&Aの相手先企業の皆さんにも提供します。これによって、個々の企業のパフォーマンスを上げていきます。
その結果財務的なリスクマネジメントを可能にしつつ、グループ全体の成長を目指します。従業員の方々にもヒアリングしつつ、モチベーションを高めながらグループ全体で改革に取り組んでいきます。
――財務的なリスクマネジメントとは具体的にどのようなことでしょうか?
影山さん 製造業は設備が必要な分野ですし、工場の設備は定期的に更新していかなければなりません。しかし、規模が小さい会社は設備投資を積極的に行うことが難しく、例えば工場のラインを追加したいと考えても、自社だけで投資するのが厳しいことがあります。しかし、グループとして規模が大きくなれば、投資しやすくなります。「勝ち残る」ためには体力を付けておく必要があるのです。
影山鉄工所の本業は鉄骨加工や鉄骨工事ですが、売り上げのボラティリティが高い(上下変動が大きな)事業です。そのため、私たちはあえて分野の異なる企業をグループ化しています。分野が異なることによって、市場や顧客の環境が変わった場合においてもリスクを減らすことができるのです。
――改革では従業員のモチベーションも重要になるのではないでしょうか?
影山さん はい、従業員のモチベーションは非常に重要です。私たちが力を入れている「ブランディング」は従業員向けの情報発信も含んでいます。影山グループの社内報は、担当者が情報を共有しながら楽しんで制作しています。
伊藤さん M&Aでは社長自らハンズオン(相手の経営に深く携わり実行)されているのですか?
影山さん 最初の頃はM&Aの後、自分自身がハンズオンしていましたが、現在は役割分担もできているので、私だけではなくHRやブランディング、IT、財務など各部署のメンバーが一緒に入って改革を進めています。
――事業承継元の会社の皆さんも、M&A先の会社や社員の方々の様子を見ると安心する気がします。
影山さん 実際、何度もこの社屋に訪問いただき、打ち合わせをした例もあります。私の話だけではなく社員の話も聞きたいということで、直接話していただきました。まあ社長はいいことしか言わないかもしれませんし(笑)。
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