大統領令で加速する米国のバイオエコノミーR&Dとデータ保護海外医療技術トレンド(88)(2/3 ページ)

» 2022年10月14日 07時00分 公開
[笹原英司MONOist]

バイオエコノミー投資の促進とリスク管理の強化に向けた大統領令を発出

 本連載第84回で取り上げたバイオエコノミーに関連して、米国大統領行政府は、2022年9月12日、「持続可能な安全でセキュアな米国のバイオエコノミーのために進化するバイオ技術/バイオ製造に関する大統領令」(関連情報)を発表した。この大統領令は、保健医療、気候変動、エネルギー、食品安全、農業、サプライチェーンのレジリエンス、国家・経済安全保障における革新的なソリューションに向けて、政府全体のアプローチを調整しながら、バイオ技術/バイオ製造業を進化させることを目的としており、以下のような構成になっている。

  • 第1条.政策
  • 第2条.調整
  • 第3条.さらなる社会的目標に向けたバイオ技術/バイオ製造R&Dの利用
  • 第4条.バイオエコノミーのためのデータ
  • 第5条.活気のある国内バイオ製造エコシステムの構築
  • 第6条.バイオベース製品の調達
  • 第7条.バイオ技術/バイオ製造の労働力
  • 第8条.バイオ技術規制の明確性と効率性
  • 第9条.バイオセーフティとバイオセキュリティの進化によるリスクの低減
  • 第10条.バイオエコノミーの評価
  • 第11条.米国のバイオエコノミーに対する脅威の評価
  • 第12条.国際的な関与
  • 第13条.定義
  • 第14条.一般規定

 このうち、「第1条.政策」では、以下のような具体的政策を掲げている。

  • (a)社会の目標を促進するために、バイオ技術/バイオ製造の主要な研究開発(R&D)領域における連邦政府投資を補強し、調整する
  • (b)バイオ技術/バイオ製造のイノベーションを進化させる生物学データエコシステムを促進する一方、セキュリティ、プライバシー、責任ある研究規範の原則を順守する
  • (c)国内のバイオ製造の生産能力やプロセスを向上し、拡張する一方、基礎研究結果の実践への転換を加速させるために、バイオ技術/バイオ製造における検証やプロトタイプ化への取組を拡大させる
  • (d)持続可能性のあるバイオマス生産を増加させ、米国の農業生産者や森林所有者向けに地球温暖化防止のためのインセンティブを構築する
  • (e)バイオエネルギーやバイオベースの製品/サービスのための市場機会を拡張する
  • (f)バイオ技術/バイオ製造を進化させるために、多様なスキルのある労働力や、多様な集団からの次世代のリーダーを訓練し、支援する
  • (g)バイオ技術製品の安全な利用を支援するために、科学とリスクに基づく、予測可能で効率的な透明性のあるシステムのサービスにおける規制を明確化し、簡素化する
  • (h)バイオセーフティやバイオセキュリティを応用したイノベーションにおける研究・投資向けの提供など、バイオ技術/バイオ製造R&Dライフサイクルの基盤として生物学的リスク管理を向上させる
  • (i)バイオエコノミーの状態を成長させ、評価するために、標準規格を促進し、メトリックスを構築して、システムを開発する;バイオエコノミーにおける政策や意思決定、投資をよりよく知らしめる;バイオエコノミーの公正で倫理的な開発を保証する
  • (j)脅威やリスク、潜在的脆弱性(外国の敵対者によるデジタル侵入、操作、流出の取組など)を評価、予想することによって、また、技術的リーダーシップや経済的競争力の保護目的で共同してリスクを低減するために、民間セクターおよびその他の主要なステークホルダーと連携することによって、前向きでプロアクティブなアプローチを採用し、米国のバイオエコノミーをセキュアにし、保護する
  • (k)米国の原則や価値と一貫した方法で、また安全でセキュアなバイオ技術/バイオ製造の研究やイノベーション、製品開発、利用のためのベストプラクティスを促進する方法で、バイオ技術R&Dにおける協力関係を強化するために、国際的なコミュニティーに関与する

 また、「第2条.調整」では、国家安全保障問題担当大統領補佐官(APNSA)が、経済政策担当大統領補佐官(APEP)や科学技術政策局(OSTP)長と相談しながら、国家安全保障覚書2(2021年2月4日発効、関連情報)で規定された省庁間プロセス(NSM-2プロセス)を通して、大統領令の実行に必要な行政機関の活動を調整するとしている。

 さらに、「第3条.さらなる社会的目標に向けたバイオ技術/バイオ製造R&Dの利用」では、保健福祉省長官、エネルギー省長官、農務省長官、商務省長官、国立科学財団理事長に対して、大統領令発効後180日以内に、保健医療、気候変動とエネルギー、食品と農業のイノベーション、強靭なサプライチェーン、最先端の科学的進歩に関連する社会目標を促進するバイオ技術・バイオ製造業についての報告書を提出するよう求めている。

 本連載第84回で取り上げたバイオエコノミーのサイバーセキュリティ/プライバシー課題に関連して、「第4条.バイオエコノミーのためのデータ」では、セキュリティ、プライバシーおよびその他のリスク(悪意のある誤用、操作、流出、削除など)を特定し、これらのリスクを低減するためのデータ保護計画を提供することを表明している。加えて、国土安全保障省長官は、国防総省長官、農務省長官、商務省長官(NIST長官を通じて行動する)、保健福祉省長官、エネルギー省長官、行政管理予算局(OMB)長と調整しながら、国家サイバーセキュリティの向上に関する大統領令第14028号(2021年5月12日付、関連情報)および関連する法律に従って、連邦政府情報システムに保存された生物学的データ向けの適切なサイバーセキュリティベストプラクティスを特定し、提供するとしている。さらに、商務省長官は、NIST長官を通じて行動し、保健福祉省長官と調整しながら、大統領令第14028号の規定に従って、米国連邦政府に販売するソフトウェア開発向けベースラインセキュリティ標準規格を設定する際に、研究器具、計装機器、データマネジメント向けソフトウェアを含むバイオ関連ソフトウェアを考慮すべきであるとしている。

 このように、米国のサイバーセキュリティ/プライバシーを含むバイオエコノミー施策についてみると、本連載第65回で触れた「クロスエージェンシー」の考え方が根底にあることが分かるだろう。医療機器企業も、保健福祉省や傘下の食品医薬品局(FDA)などの規制政策動向をウォッチしているだけでは不十分である。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.