脱EXCELから仕事の標準化へ、IHIのDXへ向けた取り組みとは製造IT導入事例

セールスフォース・ジャパンは2022年8月4日、「Tableau DataFest Tokyo 2022」をオンラインで開催した。本稿では、IHI 航空・宇宙・防衛事業領域 デジタルトランスフォーメーション推進部 部長 呉宏堯氏による講演「脱EXCELから始めたポータル化活動」の模様を伝える。

» 2022年08月10日 13時00分 公開
[長沢正博MONOist]

 セールスフォース・ジャパンは2022年8月4日、「Tableau DataFest Tokyo 2022」をオンラインで開催し、基調講演の他、「Tableau(タブロー)」を用いた企業のデータ活用実践事例などを紹介した。

 本稿では、IHI 航空・宇宙・防衛事業領域 デジタルトランスフォーメーション推進部 部長 呉宏堯氏による講演「脱EXCELから始めたポータル化活動〜バラバラのデータはつなげてBIで見るを当たり前に〜」の模様を伝える。

ポータル化で今までの仕事の仕方と考え方を変える

IHI 航空・宇宙・防衛事業領域 デジタルトランスフォーメーション推進部 部長の呉宏堯氏

 Tableauはデータを可視化するBI(ビジネスインテリジェンスツール)の1つ。呉氏はポータル化活動と名付けてTableauを用いて取り組んだ、約1年間にわたるDX(デジタルトランスフォーメーション)活動を紹介した。

 ポータルとは、ニュースや天気予報などの情報が集約された玄関サイトを意味する。「誰に強制されることもなく自ら見に行きたくなる情報サイトを社内で作ることをイメージした」(呉氏)。IHIの航空・宇宙・防衛事業領域(以下、空領域)では2019年に設計担当者向けの設計ポータルが作られており、ポータルという言葉自体は浸透していたという。

 ポータル化活動の目的と期待効果は「バラバラのデータをつなげて、今までの仕事の仕方と考え方を変える」「EXCELの単純作業を減らし、付加価値の高い作業にシフトする」(呉氏)とし、データ一元化という手段ではなく、達成したい職場の状態をキャッチコピーにした。

 また、ポータル化自体は空領域の他の重点施策を達成するための手段に位置付け、他の重点施策の達成自体がポータル化の効果実証になることを明確にした。呉氏は「重点施策同士が手段と目的の関係であり、その関係を常に維持することがポータル化活動が1年を通して高いモチベーションで継続できた」と振り返る。

 一方で工数削減時間は評価に加えなかった。呉氏はその理由を「実際には空いた時間を今までできなかった別の作業に当てていく。時間短縮ではなく、今までできなかったことを始めることができたかが、この活動の最初に現れる効果になる」と話す。

脱EXCELをスタートにデータの見方をそろえる

 ポータル化活動は2021年度上期の種まき期「脱EXCEL」および発芽期「同じデータを見る」、2021年度下期の刈り取り期「データの見方をそろえる」という順番で取り組んだ。各ステップについては「現場の変化をよく観察して、順番にかつタイミングよく目標を切り替えていった」(呉氏)。

 当初は、先述のように業績的な意味合いが乏しいことは分かっていながらも、単純かつ身近な工数の削減で良いとした。そのために最初に用いた行動目標が「脱EXCEL」だった。「EXCELファイルを作った瞬間が間接作業の火元であると決め付けて活動を始めた」(呉氏)。

 そして、大勢の人が使えば口コミの輪が広がるとして、Tableauユーザーの人数を増やすことに専念した。

 空領域でPCを使って仕事する3000人の内、3分の1が利用すれば何かが変わるという仮説を立て、1000人を目標にした。スタートした2021年度上期はTableauの操作教育を1週間に1度開催するなど、手間を惜しまず効果よりも使い始めることを優先した。

 次の「同じデータを見る」では、社内でTableauユーザーが増加するにつれて、DX推進部にポータル化したいデータのテーマが集まってくるようになったという。そこで同じようなテーマはグループ化してテーマを減らしていった。

 そして、言われた通りのポータルを作るのではなく、「共通化を念頭にDX推進部がポータルの仕様をさりげなくコントロールする。これが領域全体から情報が集まるDX推進部の付加価値の1つと考えている」(呉氏)。これにより、ポータルの標準化も自然と進んでいった。

いつの間にか仕事の標準化が始まる

 ポータル化が進めば同じデータを大勢が見るようになる。データの精度の担保は絶対条件となり、正しいデータを正しく集積したデータウェアハウスが必要になる。データの精度を理解するには正しい業務知識が要るため、業務部門と開発部門の密な連携と、システム開発の内製化が重要になる。

 そして刈り取り期では「データの見方をそろえる」ことに目標を切り替えた。同じKPI(重要業績評価指標)を空領域の工場ごとに別々の書式で見ていたため、話し合って書式をそろえたケースもあったという。「同じデータを見ていてもデータの見方がそろっていなのは、仕事のやり方がそろっていないと同じこと」(呉氏)。

 こうして、当初は脱EXCELの身近な工数削減だったのが、いつのまにか同じデータを見ることで、仕事のやり方までが標準化し始めた。さらに、ポータル化で生まれた空き時間を使い、今まで出せなかった施策やアイデアを生み出そうという雰囲気が生まれ、業績レベルでの成果も期待できるようになったという。

 また、業績につながる成功パターンとして、呉氏は業績で大きな成果を上げている部門は作られたポータルを組織レベルで活用しているとし、「自分用のTableauから抜け出すにはどうすればいいかを考えることが大切」と話す。

 具体的な成果の例としては、在庫量や発注量、工場投入量を可視化したことで、空領域の資材購入費の削減に成功したという。「数千点に及ぶ全素材の将来在庫を見える化を自動化したことで、一人一人が購入前に将来在庫を確認する行動に変わった結果、大きな効果の創出に貢献できた」。ユーザー数も2021年度末には目標の1000人に達した。 

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