航空産業で高いポテンシャルを秘めるサプライヤーとしての日本企業異色の日本人社長が見た米国モノづくり最前線(3)(2/2 ページ)

» 2021年12月08日 10時00分 公開
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高まる環境意識への課題

 軽量化と燃費改善は今日の航空業界の喫緊の課題です。これは運航コストの低減よりも“環境”の意味合いが大きいといえます。航空機が飛ぶことで排出されるCO2は全世界の排出量の2%ですが、わずか2%とはいえ、そのボリュームは10億t(トン)を超えています。気候変動の影響により環境意識が高まる中、自動車と同じく航空機にもグリーンな性能が求められるようになってきました。

 とはいえ、電動航空機はまだ開発途上の段階です。米国のエアバス、英国のRolls-Royce(ロールス・ロイス)、その他にもさまざまなベンチャー企業が開発に乗り出していますが、実現にはまだ時間がかかりそうです。最大の難関は「電池」ではないでしょうか。一説によれば600人の乗客と貨物を乗せて1万5000km飛行できる「エアバスA380」の燃料をそのままバッテリーに置き換えた場合、その航続距離はわずか1000kmまで落ちてしまうそうです。これは、航空機に搭載される電池の重量が足かせになっているためです。現実的には、まずは4人以下の小型航空機から“電動化”が商業利用されると思います。

 もう1つの方向性は水素航空機です。2020年にエアバスが水素を燃料としたゼロエミッション航空機のコンセプトを発表しました。また、今年(2021年)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の公募に応える形で川崎重工業も水素航空機向けのコア技術開発を発表しました。水素燃料はジェット燃料に比べて重量は3分の1ほどですが、体積は4倍以上になります。その問題をどうクリアするのかが、コストの問題と並んで難関となるでしょう。また、水素航空機には空港などのインフラ整備も不可欠で、国の後押しも大切です。

 こうした新しい研究課題に対して、産官学一体となった研究チームや仕組みをうまく立ち上げて、ティア1サプライヤーとしての日本メーカーの優位性をさらに堅固なものにしてほしいと筆者は願っています。それがまた国内の中小メーカーにも恩恵をもたらしてくれるのではないかと考えるからです。飛行機の部品点数は自動車の100倍といわれています。自動車1台が2万点の部品でできているとすれば、飛行機1機には200万点の部品が使われているわけです。日本の大手メーカーがエアバスやボーイングの主要サプライヤーとなることで、そうした膨大な部品供給のエコシステムに中小メーカーも参入していけるようになるのではないでしょうか。

航空機(1機)を作るには自動車の約100倍もの部品が必要になる 図2 航空機(1機)を作るには自動車の約100倍もの部品が必要になる[クリックで拡大] 出所:Proto Labs(プロトラブズ)

活気づくドローン市場

 厳密には航空宇宙産業ではありませんが、“空を飛ぶモノ”という意味でこれから伸び代の大きな市場にドローンがあります。2025年までにドローンの市場規模は現在の倍になるという観測もあり、目が離せない製造分野です。当然ながらドローンは飛行機やロケットと違って初期投資がそれほど必要ないので、中小メーカーでも成功のチャンスがあります。

 ドローン市場の3分の1は軍用で、商用は残りの3分の2です。Amazon.com(アマゾン)やGoogle(グーグル)は無人でドローンを飛ばすためのドッキングステーションやネットワークを開発中だといいます。宅配など物流での活用の他、農業、建築、土木、調査、保守、警備など多彩な領域への応用が考えられます。

領域 活用イメージ
農業 空中からの農薬散布や農作物のモニタリング
土木 測量や空撮画像からの2D/3D地図作成
建築 パイプラインや橋梁などの点検/保守
保安 空中からの警備や山岳地帯などでの人命捜索
災害 災害時の人命救助支援
報道 交通網が遮断された場所での空撮
表1 商用ドローンの適用例

 現在は中国のドローンメーカーであるDJIが7割近い市場シェアを獲得していますが、画像処理やAI(人工知能)、ロボティクスなどを組み合わせてさまざまなサービスを立ち上げることで、日本企業にもまだまだチャンスがあります。

 レオナルド・ダ・ヴィンチが鳥の飛翔に関する研究をしていたことは有名ですが、ライト兄弟が生まれるずっと前から人間は空を見上げては飛ぶことを夢見てきました。飛行機もロケットも、またドローンも、全てはその憧れから始まっているのではないでしょうか。エンジニアや起業家の心に宿るその強い憧れこそが、新しい技術やビジネスを生み出すのだと筆者は思っています。 (次回へ続く

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Profile

今井歩氏

今井歩(いまい あゆむ)

オランダの工科大学で機械工学を学び、米国Harvard Business Schoolで経営学を修める。日本ではソニーやフィリップスに勤務し、材料メーカーや精密測定機メーカーの立ち上げにも関わり、現在はデジタル加工サービスを提供する米企業Proto Labs(プロトラブズ)日本法人の社長を務める。

⇒プロトラブズのWebサイト


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