トヨタ自動車は2021年6月11日、同社が取り組むモノづくりについての発表を行った。本稿では、その中で、デジタル技術の活用をはじめとする工場での取り組みをピックアップして紹介する。
トヨタ自動車(以下、トヨタ)は2021年6月11日、同社が取り組むモノづくりへの考えと具体的な取り組みについての発表を行った。
登壇したトヨタ 執行役員 Chief Production Officer(CPO)の岡田政道氏は「この国にとってモノづくりは必要なのか」「モノづくりは地震国日本でやっていけるのか」「電気自動車以外でCO2を出さないクルマが作れるのか」などモノづくりに関する懸念点について、問いかけを行った。これに対し「意志ある情熱と行動で未来の景色は変えられる」(岡田氏)とし、これらの懸念点に対し、トヨタが実際に取り組んできたモノづくりへの取り組みを紹介した。本稿では、その中で、デジタル技術の活用をはじめとする工場での取り組みをピックアップして紹介する。
具体的な取り組みの1つとして、元町工場での「GRヤリス」の生産工程における運動性能の作り込みを紹介した。「GRヤリス」はマスタードライバーを総料理長として運転の“味”にこだわった監修を行っているが、一品モノのレースカーではなく、量産車でこれを具体化するというところに難しさがあった。これを生産工程内で運動性能を作り込むことによって実現した。
スポーツカーに必要なボディー剛性を匠の技により作り込むことに加えて、各部品のばらつきを計測し、そのばらつき状態を踏まえた上で最適な組み合わせを見つけて組み付ける「逸品生産ライン」を構築。ボディーや足回り部品の3D測定、測定データから部品を選択組み付けできる仕組みを作っている。これにより、車両完成状態での精度を高め、一般グレードの「ヤリス」と同じ部品を使っていても完成車としての性能を高めることができたという。
またトヨタでは2050年目標としていた工場のカーボンニュートラル化を2035年に前倒しする計画を示しているが、CO2排出量削減のためには、再生可能エネルギーの利用などの一方で、工場で使う技術の革新や日常の改善による削減が大きい。「カーボンニュートラルはモノづくりを根本から革新するチャンスだ」と岡田氏は考えを述べている。
これらを支える生産技術の事例の1つとして、「飛散しない塗装技術」を紹介した。塗装工程は、自動車の製造工程の中でもCO2排出量が多い工程の1つである。従来の塗装技術では、塗装剤を吹き付けるのに、飛散範囲が広かったために塗着効率が70%程度で、残りの30%の塗装剤は無駄になっていた。これを新たな技術を組み込み塗着効率95%にまで高めることができたという。「静電気と回転というアイデアを組み合わせることで最小の塗料で最大の塗布効率を狙った。設備も小さくすることができ、電力も大きく減らすことができた」(岡田氏)。
さらに、塗装工程そのものをなくすための取り組みも進めている。金型内で着色を行うインモールドコーティングにより、プレス成形と塗装を1つの工程で完結するというものだ。「現在トライ中の技術だ」と岡田氏は述べている。その他、シールで塗装を代替する塗装レス化やからくりを使った無動力装置の活用拡大にも取り組んでいる。
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