革のベルトからバイワイヤまで、ブレーキの発展の歴史を振り返るブレーキの歴史と未来(1)(2/3 ページ)

» 2020年10月19日 06時00分 公開
[一之瀬 隼MONOist]

 ブレーキペダルは「てこの原理」を用いており、ブレーキペダルが取り付けられている支点から、ブレーキペダル踏み込み面までの距離と反対側の軸までの距離との比率に応じて、ドライバーの操作力が増幅されます。また、馬車の時代には手で引くブレーキが主流でしたが、足で操作することでドライバー自身が加える操作力も大きくできます。

 ブレーキブースターは、ドライバーの操作力を助勢する機能を持っており、ブレーキペダルの先に設置されます。一般的には、エンジンが駆動することによって生じるエンジン負圧を基にブレーキペダルから入力された力を増幅し、油圧ブレーキシステムの一部であるマスターシリンダーに対して出力します。ブレーキペダルやブレーキブースターの活用により、人間の力で1t以上もある走行中の自動車を停車させられるようになりました。

 マスターシリンダーに加えられるブレーキブースターによって増幅された力は、油圧ブレーキシステム内のブレーキフルードを介して、自動車のそれぞれの輪に付いているキャリパーに伝えられます。キャリパーにはホイールシリンダーが付いており、マスターシリンダーとホイールシリンダーの間にはパスカルの原理が働くため、4つの車輪に対してそれぞれの面積関係に応じた力が作用します。最終的には、ホイールシリンダーが押し出され、その先に付いているブレーキパッドがブレーキローターに押し当てられることで、自動車を止めるための大きな力を発揮します。こうして少ない操作力でも大きな自動車を安全にコントロールできるようになったのです。

ブレーキもCO2排出削減に貢献

 大きな社会情勢の変化として、地球温暖化の原因といわれるCO2排出量を減らすための取り組みが始まり、自動車業界もその影響を大きく受けています。少ない燃料で長く走行するために、自動車自体の軽量化やエンジンの効率化が進められています。そのような流れの中で、画期的なブレーキシステムとして注目を集めたのが回生ブレーキです。

 回生ブレーキとは、駆動力を発生させる役割で搭載されているモーターを、減速するときとは逆回転させることで発電機として使用し、走行エネルギーを電気エネルギーに変換、回収するブレーキです。従来のブレーキでは、走行エネルギーを摩擦により熱エネルギーに変換していましたが、その熱は大気に放出するだけで回収することはできませんでした。回生ブレーキの採用によって電気エネルギーとして回収できるようになったため、エネルギーの有効活用につながります。

 回生ブレーキは自動車で初めて採用された技術ではなく、鉄道では自動車よりもかなり前から採用されており、その技術が自動車向けにカスタマイズされました。回生ブレーキと呼ばれることが多いですが、似たような用語として回生協調ブレーキがあります。ドライバーが車速をコントロールする際には、回生協調ブレーキの方が望ましいのですが、この違いについてはまた違う記事で紹介します。

回生ブレーキは、自動車よりも鉄道が先行(クリックして拡大)

 環境問題に対して大きな効果を発揮する回生ブレーキが誕生した後、ブレーキに求められたのは利便性と安全性のさらなる向上です。走行中に周囲の状況を確認、把握し、必要に応じて安全にブレーキをかけるという行為が、少しずつ自動化されつつあります。この自動ブレーキは条件によって自動車の税金や保険料が安くなるなど、普及を後押しする環境が日本でも整えられています。

 自動ブレーキシステムでは、周辺環境の認識は車両に搭載されるカメラやレーダーが担い、状況に応じた減速要求をブレーキに送ります。その要求に応じてブレーキが制動力を発生させます。この機能を実現するためには、ブレーキの電子制御化や電動化が必要不可欠です。従来のようにメカ機構だけで構成されたブレーキシステムの場合はドライバーが操作をしないと減速エネルギーを発生させられませんが、ブレーキを電子制御化・電動化すれば、仮にドライバー操作がなかったとしても、電気信号を送ることでブレーキをかけられます。

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